霧の向こうを見ることはできない。
　その霧が晴れたとき、一切は過ぎ去っている。
　ただ一つの結果が残されるだけだ。
　我々ハイドラ乗りは、その結果に一喜一憂する。
　撃った弾が当たったかを、紙一重の一撃を避けることができたのか。
　霧の中見えていた機影が本物なのか、幻視ではなかったか。
　すべては霧の中にあり、それは晴れるまでわからない。

　だから、私は委ねてみることにした。
　紛れもなく命を賭けた行為だと、言うことはできよう。
　しかし、それは真意ではない。
　撃ち放たれる弾丸、噴き上げては赤を呈する灼熱の炎、その刹那なる様の無造作。
　それこそが理想であり、従って、失われることへの恐怖も、ダイスを振る熱狂も、すべては余剰積載だ。

　積載した格闘武器はヒートランス『ロラマンドリ』。
　その大出力を相殺するだけのものを、優秀なメカニックたちはこしらえてくれた。
　しかし、格闘武器を取り回すには、急激な方向転換や加速、急制動が不可欠。
　それが一般的な認識だった。
　私もそうと考えていた。積載してみたものの、それを使う機会は一度もないか、あるいは身体的な負荷を顧みずにそれを振り回し、また作戦後に病院送りになるのではないか、という危惧は確かにあった。

　にもかかわらず、それは抜き放たれる。
　自らの命を脅かすことなく、それは真紅の花を咲かせる。
　それは確かに抜き放たれた。
　閃光、一撃。敵機撃破のアラートサイン。

　霧が晴れてからわかる。
　それは敵機とマルチプレクサが高速ですれ違う、一瞬の間に放ったのだ。
　その一撃は誰が？ 霧の彼方から高速接近する、目標物が接敵する瞬間は誰が知る？

　それはまだ、霧に包まれている。