ENo.0101　ベティ・ヴィーナス

　正直に言うと、私は何の為に生きているのか、わからない。
　日課のように傭兵としてウォーハイドラに乗り込み、配属先の障害となるものを破壊し、報酬を得て食い繋いでいく。そんなルーチンワークに何の感情も燃やせないまま、どれくらい……どれくらい経ったのだろう。

　気がつけば月日は流れ、季節は巡り、腰まで伸びていた後ろ髪も尻を隠すほどの長さになっていた。貰ったケバブ屋の割引券も使用期限が過ぎた。そこに連れて行った友人のフジは結婚するからライダーを引退するなんて言ってきたし、もう一人の友人のサリーはいきなり愛機を射撃型から後方支援型に組み換え始めたし。何が彼女達をそうさせたのだと訝しんでいたら、かつて破壊した『ミスト・アヴェンジャーⅡ』という機体が積んでいた恐ろしい兵器――領域殲滅兵器が、量産化されマーケットに並び始めた。更に傭兵業も大きく変わり、我々が好きな出撃ポイントを選択できる制度から、上が決めた各ポイントにランダムに出撃メンバーが振り分けられ、二十機ほどで多対多の戦闘を強いられる制度に切り替わってしまった。
　はっきり言わせてもらう。私はこの制度改革には心底がっかりしている。最悪の場合、機体との向き合い方がわからず支給されたままの構成で戦場に出る奴らのことを、面倒を見なくてはならないからだ。

　人は変わる。心は変わる。市場は変わる。世界は変わる。だが、私の心は昔を懐かしむばかり。
　熱くなれたある一時期への思い入れが深いせいで、新しいものを受け入れられなくなってしまったのだ。

　それでも私は、今日も操縦棺に乗り込む。
　愛機と共に戦場を駆けることが、このもやもやとした気持ちを忘れられる唯一の手段なのだから。