ENo.0048　Ｌ＝Ｆ

「…よせ、ジョウ！　お前の機体じゃ、一度重力圏まで落下したら戻って来れないぞ！」

『他には誰もあのシップに届かない。
　……大丈夫、この“爆魔皇”なら、『墜ち』ても壊れませんよ』

「こんな時に冗談を──待て、駄目だ、やめろジョウ！　団長命令だッ！！」

『……すみません、キャプテン。
　でも、ぼくはやっぱり、『ぼくとしてしか生きられない』。たとえ絶対の団長命令でも聞けません！』

「くそッ……ならオレが行く！　出力リミッターを外せばぎりぎり間に合う可能性が──」

『それこそシップに到達した後、あなたが戻れなくなるでしょう？
　……それに、もう間に合わないですよ。キャプテン』

「………！！」

『シップ到達、エンジン反応なし。ジェネレータダウン状態と推定。
　“爆魔皇”の予備ブースターを移設開始、緊急出力で点火して軌道レベルに高度回復を試みます』

「よせ！　お前の重量機が、軌道上でサブブースターを外したら、どうなるかぐらい分かるだろうッ！」

『…移設完了。
　打ち上げカウントダウン省略、最大出力で点火ッ！！
　──ちゃんと拾ってあげてくださいよ、キャプテン。へまをしたら怒りますからね……』

「ッ……こ、ッの、……
　馬ッ鹿野郎がぁァァァァァ──────！！！」


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　今でも、あいつを失った日の事は克明に思い出せる。
　一時は、それこそ毎夜のように夢に見る有様だった。忘れようもない。

　ドクターには「BL小説かね君は」などと酷い揶揄を受けたりもしたものだが、それでも一ヶ月の間、オレを廃人にならないよう全力でケアしてくれた恩人であることには変わりない。
　結局、いち傭兵の分際で傭兵団を立ち上げるなどという大それた出来事から今に至るまで、ドクターに受けた恩を全然返し切れていないことになる。きっと地獄に行っても頭が上がらないだろう。
　……もっとも、あのドクターがオレより先に死ぬとは到底思えないが。

　ドクターを除き、団の皆には一切何も言わずに別れてしまったことは、しかし未練こそあるが後悔はしていない。
　風の噂に、団の自然消滅とメンバーの離散の行方は耳にしていたが、それでいいと思っている。
　たとえこうしてまったくの別人になり替わった今であっても、オレの過去が知れれば関係者全員ただでは済まないのだから。
　オレが独断と身勝手でで団を解体に導いた。団員はすべて騙された被害者。それでいい、それが一番都合がいいのだ。

　それでも、あいつらがオレを探すことまでは止めようがない。
　制限された中で、何とか過去のオレに関する偽装情報を流して矛先を変えてはいるが、手を変え品を変えしてもきっちり食らいついてくるのには困ったものだ。
　あまり追跡され過ぎると、『オレがすでに別人になり替わっている』ことがバレてしまう。そうなったら今までの苦労が水の泡だ。

　最も効果的なのは、「死亡説」を流すことだが……こればかりはよほど周到にやらないと、偽装であることが露見しやすい諸刃の剣だ。
　かつての「オレ」が死んだという偽装情報を確定のものとするためには、いくつかの越えなければならないハードルがある。


「……残像領域、か。
　誰かの死を『残像』に焼き付けるには、おあつらえかもしれないな」