ENo.0281　アビダン

初めての任務でステルスを決め込んだアビダンは、それでも幾らかの敵から捕捉されたが、ハイドラはともかく自身は全くの無傷で生還した。当然だ。部隊の一番後方で待機して、目だった行動は何もしない。動かない。それこそ既に撃墜されたハイドラみたいに。そうやって適当に場をこなした。それでもアビダンには報酬がきちんと支払われた——しかも、アビダンにしてみれば、目の眩むような金額の報酬が。アビダンはもう有頂天だった。戦闘で成果を出さなくったって、出撃記録さえあればいいんだ。ちょろいもんだよ。なんて最高なんだ、プロのハイドラライダーってやつは！

そうして次の任務が言い渡された時、アビダンは大きな目をさらに大きく見開いて、はぁ？とこぼした。コロッセオ。君たちの戦いをダシに賭けを行うようだ。気にせず全力で戦ってほしい。はぁあ？　何言ってんだよ。もっと傭兵らしい仕事を回せよ。おれは見せもんでライダーやってるんじゃねえんだよ！　しかし職員は取り合わない。見下ろす視線。無言の重圧——嫌なら受けなくてもいい、だがお前は「プロ」だろう？——アビダンはうんざりとその視線に顔を歪めてみせてから、露骨に舌打ちして踵を返した。ここで逆らってライセンスを剥奪されるのは、惜しい。あまりにも、絶対に惜しすぎる。ならばアビダンに選択肢はない。やるしかない——ひとりで。ひとりで？
いや。もしかして、ふたりでもいいんじゃないか。というか、絶対にふたりのほうがいい。もしもそいつが戦場で死んだら、そいつの分のクレジットだとかハイドラのパーツだとかは、大事な僚機の遺品ですからとかなんとかいって、全部自分のものにすることができるんじゃないか。自分はまた戦うフリだけしていればいいし、もしそれを咎められたら適当に言い訳すればいい。怖かったとか。霊障が起きたとか。そうだよ。その方がいいな。お得だよ、どう考えても。そうすべきだよ。

そうしてアビダンには幸運なことに、そういうことを恐らくは許してくれるだろう——あるいはどうでもいい、好きにしろ、と言うであろう——ハイドラ乗りに、心当たりがあった。そうして彼は、アビダンのライセンスが借り物であることも知っている。さらにさらに幸運なことに、そのハイドラ乗りとはこのあと食事をする口約束がある。
顔についた汚れをグローブの甲で乱暴にこすって、アビダンはいつものように目を細めた。そうして約束の食堂へ向けて、歩き出した。