ENo.0076　マリエッタ

僕は真っ向からの戦いは不得手だ。
自分で言うのもなんだけれど、非力だと思う。

「種族特有の特徴の一つである怪力。これのお陰で並みの人間以上には握力も腕力はあるけれど。」

一族の中では、本当に非力で戦いには向いていない、そんな腕力体力だ。
一族が好んで使う大鎌も、使う事はできるが、情けない事にすぐ体力が尽きてバテてしまう。
だから僕は普段、大鎌ではなく一冊の魔導書を持って歩いているのだ。
じゃあそれを使った後方からの攻撃は十八番なのか？
そう問われたら、グレー。

「魔術は使えるよ。使えるけれど、生憎、大魔術師みたいに魔力がずば抜けて優秀なわけでもない。」

そも、僕の得手は『状況把握』と『情報分析』。
戦線に立つのではなく、戦線を立つ者の為に限りなく有益な情報を得るのが僕の役割だと思っている。

「それから、自分で言うのもなんだけど、この小柄な体格とすばしっこさを生かした偵察、とかね。」


身長が低いのが我ながら少しコンプレックスで。だから厚底の靴は欠かせなかった。
あと10センチ……いや、贅沢は言わない、せめてあと5センチ高ければ。
ちなみに靴はヒールでもいいのだけれど、個人的にヒールより厚底の方が安定していて動き易い。
厚底じゃなければもっと動けるのだろうけれど。
本当に、どうしてこんなに小さく育ってしまったんだろう。

……………………胸も。

「どーせ、つるぺただよ」

☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆

ああ、本当に。
もう少しだけ身長が高かったら。

数値にすればたかだか数センチ、実際並んで立てば目線なんて変わらないけど。

「ほんの少しの差だけどさぁ、悔しいんだよ。レナより小さいなんて屈辱的。」

何事も勝っていたいと感じるのはあいつのみ。
他だったら、他の人だったら、どうでもいいと思うのにさ。
どこぞの子供みたいに張り合ってしまって、僕は本当に馬鹿だ。

こうだったら、ああだったら、なんて言っても栓無い事だけども。

身長が高かったら、見下せた。
上から、頭をくしゃくしゃにしてやれたのに。

真っ向勝負が得意だったら、前線に立って身体を張って戦えた。

「……逃げていなければ」

護ってやれた。




……かもしれない。

☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆

そこには別の未来があって。
僕の望んだ、結末があって。

そんな叶わぬ数多の事々を日々夢見ながら、


そうして今日も、危うくなったら、僕らしく逃げるのだ。