ENo.0316　リビー・ニエロ

　
　
『どういう行儀ですか。見習いとはいえスターナイツともあろうものが』



懐かしい声だった。
黒金乱眼の機体整備を終えて、あとは繋いだノート型端末との並列処理だけになったため、リビーが一服しようとした時だった。忍び込んできた霧を鬱陶しげに扇ぎ払いながら、機体側に据えた安っぽいテーブルセットの簡易椅子に腰を下ろす。テーブルの天板の上、静かに画面を光らせる端末の隣に行儀悪く両足を乗せて、煙草を吸おうとした。
その時。
リビーは凍りついたように動きを止めた。咥えかけていた煙草がぽろりと地に落ちる。ここにいるのはリビーひとりだ。他は誰もない。バディのリオさえも。なのにその声は白い霧を裂いて、はっきりと明瞭に、美しささえ湛えて響いた。

『どういう行儀ですか。見習いとはいえスターナイツともあろうものが』

懐かしい声だ。
これが幻聴だと知っていても返事がしたくなる。
努めてゆっくりと体から力を抜き、椅子に体重を預ける。天井を見上げる。体が酷く重い。足はテーブルから下ろさず、わざとらしいほど大仰な仕草で組み変えた。

「これで幻覚まで始まったら、俺はきっと折れるな」

我がことながら容易に想像できて、リビーは可笑しそうに喉を鳴らした。落ちた煙草はそのままに、新しいものを咥える。火はつけないまま、ぼんやりと虚空を見る。誰の姿もないことに、安堵した。

幻覚のあの人が現れたら。
そんなものは本物のあの人への冒涜だ。だから絶対に認められない。それでも懐かしくて愛おしくて、消えて欲しくなくなって、縋り付いて、ぼろぼろになるだろうと分かっていた。

「ただでさえ俺の頭はヤバいんだ。『幻のあの人』なんて、クソにだって、いくらでも縋るだろうよ」

そして縋る自分が許せずに、自己嫌悪と罪悪感で擦り切れて、坂道を転がるように壊れて行く。



（そうなれば、あの人を探すこともできなくなるのに）
　
　
　
　

　
　
リビーが『黒金乱眼』を置いている格納ガレージ。
薄暗いガレージの隅には古いマットレスと毛布、多少の荷物が無造作に転がっており、ここで寝起きしているようだ。
　
　
　
ガレージの中央に鎮座するのは『黒金乱眼』。
機体が置いてある部分はきちんと照明や整備機器、および簡易のテーブルと椅子があるが、それ以外はがらんとしていて薄暗い。
　
　
　
【ユニオン基本】
・格闘上げ＋ロールプレイ舞台。
　情景描写のお供にどうぞ。
　
・参加希望の場合はENo.316までメッセージをいただければ次回更新時に随時許可宣言予定。
　未参加のまま、情景を利用したメッセージのみのやりとりも可。
　
【ユニオン活動】
・格闘
【ユニオン購入】
・機動力+3%