ENo.0134　ギルデンロウ

【第三週目：ルカ・タオユン】
　スポンサーに宛がわれた残像領域における俺の「相棒」は、ルカ・タオユンというフードの《メカクレ》野郎だった。
　もともと素性のわからん男に頼るつもりもなかったが、機体の調整に失敗し、剥き出しの操縦棺と脚部で戦場に来たときには呆れてしまった。こんな間抜けが俺の僚機かね。
　しかし、味方が重いのにはずっと慣れてはいる。俺がやる事があの時と変わらないのは、むしろ喜ばしいことかもしれない。

【第三週目：非合法都市】

『盗賊紛いの奴らが都市を築き、軍隊まで集めている。交通の要所には邪魔な存在だ。叩き潰してくれ』

　“盗賊紛い”ね。果たしてどこまで本当なのやら。企業連の地上げだか強盗だかの目的の為に、邪魔な兵器を殲滅するというのが俺たちのミッションだった。そう認識している。盗賊はどっちだ？しかしそれも、俺の知ったことではない。
　市街地で行う戦いだ。俺は敵兵器を何匹か叩き潰したが、その百倍の生身の人間を踏み潰したのだろう。
　しかし、生というものは、元からこのようなものだ。戦いにあたっての俺の高揚は、俺を含めた人間の命よりも遥かに重い。
それに、《カレイディア》のヒートソードの切っ先が戦車の頭を貫くまで、俺はずっと死んでいた。他人を慮れる道理はどこにもなかった。
　俺はきっと、元から人殺しだったのだろう。

　戦闘が終わったあと、企業連の申し訳程度の救出班を手伝う物好きのハイドラ乗りもいたが、俺はすぐに拠点へ帰投するつもりだった。メインカメラの端で、崩れたビルの瓦礫のなか、子供が死体に縋って泣いているのが見えた。
『そこのガキ。離れろ。ブースターを噴かす。巻き込むぞ』
　外部スピーカーをオンにして警告すると、ガキは泣き腫らした眼で俺のハイドラを見上げ、睨みつけた。カメラごしに眼が合った。退く気配はない。俺はブースターを噴かす。瓦礫が跳ね上がる。ガキがどうなったか分からない。俺は拠点に戻った。

　何処であれ、どのような形であれ、何も無い人間は、何も無く死ぬほかない。しかし、俺には戦いがあった。
　そしてまだ、俺には戦いがあるはずなのだ。かろうじてそう信じられる。

　俺はこのゲームに向いている。かつての戦場《カレイディア》から追い出されてもなお、俺は強いままだ。
　俺はまだそう信じている。

【購入パーツ】

＞no.125“小型エンジン”
「電磁武器を利用するにあたって、出力を上げる必要があった。それだけかな」

＞no.203“AD-01アンク”
「俺のもともと知る物理法則からすれば、全く非合理な形状と材質を持つ、どうしようもない装備だ。何故購入したかといえば、残像領域の世界律は、俺の知るものとは別だからだ」

＞“走行ユニット『ローラースルー・ゴーゴー』”
「接地移動の際の補助パーツを急ぐ必要があったわけではないが、純粋に良いパーツだったので購入しておくことにした」

『ハイドラ乗りは戦場にある限り、死と隣り合わせの存在だ。
実体剣やレーザーブレードなどを機体に握らせ、
火器を目前に対面して戦う格闘機乗りなら、死と重ね合わせの存在といっていい。
　敵の中に孤立しながら、斬り開いた敵機の残骸の奥に、同じく剣を振るう味方機を識別することがある。
会話がなくとも、そのような面子を幾度も見つけていると、僅かな連帯感を抱くものだ。
遅かれ早かれ、奴らの姿は見ないようになる。
「奴は霧になったんだ」感傷混じりに言う奴がいた。
俺もいつかはそうなるのかもしれない。しかし俺たちは剣を握ることをやめない。
名誉のため。生きてる実感のため。病的な矜持のため。あるいは死ぬために、剣を握らなくてはならない。
　……そして敵陣の中で、また新しい顔を見るようになる。“物好き”は次々やってくるのさ。
だって、残像領域はそもそも“物好き”のための場所だろ？』
　――そんなことを言ってたアイツは、つい昨日で、霧になったよ。