ENo.0076　マリエッタ

「……全く以て理解し難い。」

そんな事を独り言ちながら歩く。
今、他者の目に映る僕は明らかに不機嫌そうな表情をしていることだろう。
だって仕方ない。事実、不機嫌なのだから。

☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆

「いいか！！絶対！！ぜーったいに憑いてくるなよ！！？絶対にだからね！！！」

柄にも無く大声で、それも吐き捨てる様にいつも背後に憑いている例の霊に向かって言葉を投げたのは
つい先刻の事。
らしくない、とは思っているのだけれど。

「僕の分のケーキが無いなんて、信じられない。」

甘いものは頭脳労働者として必須アイテム。
脳の疲れを癒し、隅々まで活性化させ、思考をフル回転させる為の、言わば活力剤。
……実際に疲れが癒されてるかどうかは別として、ね。

そんなワケで。

「僕だってケーキを食べたっていいじゃない？」

こんなワケ。



☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆+☆

ケーキを求めて三千里、なーんて距離を歩いているわけではないけれど。
あいつが食べたものよりも上等なモノを食べよう、なんて張り合ってしまうのは最早日常茶飯事で。
そんな上等なモノがここ近辺にあるかなんてわからない。

「なけりゃ、自分で作るまで。」

こう見えて菓子作りは得意な方で。
プロの腕前、とまではいかないけれど、そこそこに自信はある。
弟がパティシエになった切欠が僕の作った菓子ってくらいだし？

「……もう久しく作っていないな。偶には作っても。」

ただし、あいつに見つからない場所で。
きっと柄にもない、って笑うんだろう。
いや、別に笑われたっていいんだけどさ。

でも煩いと集中して作れないし、見つからないように作って、そして食べてしまおう。
小さいサイズでワンホールなんて、とても贅沢じゃないか。
さて、何を作ろうか……苺たっぷりのガトーフレーズ？
それとも、ほろ苦いクラシックショコラ？チーズをふんだんに使ったフロマージュでもいいかな。
なんて考えていたら視界に真っ赤に熟れた林檎が映って。

「……そう言えば、あいつはアップルパイ好きだったっけ。記憶違いじゃなければ。」

なんて、また独り言ちて林檎を手に取って。
気が付けば数玉とパイの材料を購入してしまったりして。
他人に食べて貰うのなんて久々すぎて、上手く作れるだろうか、なんて心配までして。



……ああ、我ながら、分かり易い程に馬鹿だなぁ。