ENo.0328　"Canary"

その日もまた霧の濃い日だった。
マーケットは相変わらず多くのハイドラライダーで賑わっていた。
二人連れも多い。
仕事を重ねていくほどに、バディを結成するライダーは
増えていくのかもしれない。

――そして、僚機を失うひとも、また。

特に何かを探しているわけではなかった。
ただ、かつて彼女に出会ったこの空気が恋しかった。
次の仕事を最後にもう呼ばない、そう決めたのは自分なのに。

諦めるものさえなく、帰ろうと思った時だった。

「アナタがnanicoの僚機ネ？」

第一声がそれでなければ、きっと勘違いしただろう。
目の前にいたのはどう見てもnanicoそのものだった。

彼女はnanimaruと名乗った。
nanicoの姉みたいなものと言ったが、それなら双子としか思えない。

「アナタに、パーツを贈りまショウ……。
　……かつテ、nanicoがそうしタように」

彼女は何を知っているのだろう。
nanicoとわたし、出会ってからのすべてだろうか。
だとすれば、このあとの返答も、その結末も知っているはず。

――かつて、nanicoにそうしたように？

いいえ、もう戸惑わない。顔もそらさない。
nanicoと同じ笑みをまっすぐに見つめて、笑顔で返す。

「ありがとう。お返しにパーツを渡すから。受け取って」

同じ道はたどらないつもりだった。
断ち切ったはずの未練から逃げたかった。
けれど目の前の彼女は次の言葉を待っているようだった。
あの笑顔のまま、ずっと。

「……次の仕事、組みませんか？」

ため息交じりにそう告げる。
nanimaruの笑顔は、nanicoよりずっと意地悪に見えた。

たとえば、帰り道を見失った山中の崖から。
あるいは、あたたかなベッドで不思議な夢を見ながら。
もしくは、道路を走るトラックの前から。

自身が望むと望まざるとにかかわらず、
残存領域に入り込んでしまった子供たち。

彼らのほとんどは身寄りもなく、
何の後ろ盾もないまま霧深い戦場を彷徨う。

彼らが還る場所はもう、霧の中にしかない。