ENo.0295　リゼット・フォーレ

リソスフェア要塞戦は恙無く終了した。
戦果も悪くはなかったし、被弾も少なかった。上々、と言ってもいい。あたしたちにとっては。
ノクターンは概ね、思い通りに動いてくれた。拙いデュエットは、少しずつ揃ってきている。

それでもやっぱり、死人は、何人か出たらしい。

祈りを捧げるほど敬虔ではない。少なくともあたしは。
運が悪かった、一瞬油断した、それだけで人は死ぬ。
あたしは今のところまだ、ツキには見放されていないようだ。それを感謝はする。

少しずつ、戦場で見慣れた機影も増えてきた。
ただ、それがいつ消えていくのかは誰も知らない。

マーケットには死人の最期の設計パーツが何事もなかったように並び、何事もなかったように買われていく。
あたしもそれを見る。あるいは買うこともあるだろう。需要にマッチさえしていれば、死人の作でも。
誰が死んでも生き残っても、マーケットは、世界は、そのまま回っていく。ライダーは替えのきく存在だから。

ママは生き残った。生き残り続けた。引退するまで。
あたしはどうだろう。ノクターンとうまくやっていけるだろうか。このめまぐるしい戦場の中で。
そして、あたしはいつまでここにいられるだろう。

あたしは戦場が嫌いじゃない。たぶん、そういうことなんだと思う。
それはあんまり褒められた性質じゃないと思うけれど、この際仕方ない。

戦場の中、ばら撒かれる弾丸とブレードの風切り音を歌として聞く。
それがママから教わった、歌うたいが戦うための作法だ。
あたしはライダーとしても歌うたいとしてもまだまだだけど、それを忘れたことはない。
そしてそれは、楽しい。楽譜のない歌が続いていくのは。

果てのない即興演奏。
あたしは音楽に乗る。ノクターンとともに。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

店の奥で小規模な殴り合いが発生している。