ENo.0261　Solitus

カナエとソーナが残像領域へ足を踏み入れ、ソリトゥスを操るようになってから一週間目にあった作戦では、無事に二人は生き残ることに成功した。
ハイドラライダーになってから、はじめて参加した大きな作戦にはとても頼りになる同業者がたくさんいて、中には以前の戦闘のときに一緒になったのを覚えてくれていたらしく、わざわざ声をかけてくれた者もいた。
――あのウォーハイドラの戦いっぷりは凄まじかった。ものすごい勢いで敵を殲滅していく姿はとても格好いいし頼りになるものだった。
ソリトゥスで同じことをしたら確実にソリトゥスのほうが先に限界を迎えるため、自分たちには実現できそうにない戦い方だったから、余計に。

「君が一番得意なことは、後ろからの索敵だもんね」

いつものように、ソリトゥスのメンテナンスを進めながら、カナエは今は沈黙している機体の狼へ声をかけた。
はじめてソリトゥスを見つけたときに感じた衝撃は、今でもはっきりと覚えている。
霧の眼にいた頃もソリトゥスのような、索敵を中心とした機械仕掛けの乗り物はいじっていたけれど、今まで触れていたものとは全く違った。
ボディはもちろん、装甲も、レーダーも、カナエがよく知っているものよりもうんと優れていて――だからこそ、大破したまま朽ち果てそうになっていたソリトゥスを使いたくなった。
何故大破した機体を使いたがるのか、と言いたげな目で見られたが、あの一瞬でカナエはソリトゥスというウォーハイドラを気に入ったのだ。
後々、ソーナに見せたときも、彼女はどこか嬉しそうな顔をしていたから、その選択は間違っていなかったのだと思っている。

――ソーナは、カナエには聞き取ることのできない、機械の『声』を聞き取るから。

「……ソナとはじめて会ったとき、ソナは君にぴったりと身体を寄せてしばらく動かなかったけど……一体何を話してたのかな」

問いかけても、帰って来る言葉はない。
いや、もしかしたらソリトゥスは返事をしているのかもしれないけれど、残念ながらカナエにはその声を聞くことができない。
ほんの少しだけ自分自身の平凡な耳を呪ったけれど、できることとできないことがあるのが人間で、できることとできないことがあるからこそ、それぞれの役割を分担して生きていくしかない。
大丈夫だ。ここはあの掃き溜めの街ではないし、カナエにはできないことをやってくれる仲間も、今のカナエにはいるのだから。
ちらりと振り返り、毛布にくるまってすやすや寝息をたてているソーナを少しの間見つめてから、カナエは再びソリトゥスに向き直る。
次の作戦も忙しくなりそうだから、メンテナンスはきっちり行わなければならない。

「……今日もよろしくね、ソリトゥス」

一緒に暴れようぜ、思いっきり。
様々な索敵装置や火器に接続端子を繋げ、猫のように笑った。
まだ朝日が昇りきらない、早朝の出来事だった。