ENo.0206　モニカ・フランクリン

『盗賊紛いの奴らが都市を築き、軍隊まで集めている。交通の要所には邪魔な存在だ。叩き潰してくれ』

　次の任務として届いたメールは相変わらず素っ気ないわ情報は少ないわだったけど、でも十分噂になってるその非合法都市に関しては流石の私だって知ってた。
　この指令がハイドラライダーたちに下されるのは二回目のはずだ。一度目も恐らく、同じようなメールで指令でハイドラライダーは非合法都市に向かい、そしてその先で全滅を喫した。そういう噂、ううん、事実が私みたいな決して情報網に恵まれてないライダーにも届くくらいには衝撃的で、だからこのメールを見てすぐに思い出せた。ああ、こっちにお鉢が回ってきたんだって。

　全滅。改めてショッキングな響きだ。
　だって全滅だよ全滅。全て滅された。どんだけだよって感じ。私が今まで経験してきた戦場は、そりゃ撃墜される機体も見てきたし、その中で死んだ人とかもいたのだろうけど、全体的には私のいる、味方陣営が優勢なまま戦況を進めてそのまま、というようなことが多くて、そりゃ前回私は攻撃を食らってすごい揺れてびっくりしたし、一瞬死ぬかとも思ったけどでもそんなにヤバいってことにはならなかった。
　だから、全滅するような状況が、正直全然想像つかない。
　どうなるのだろう。味方機が一つ一つ潰されていく。味方は減るのに敵が減らない。自分が戦う相手が増えていく。ぞっとしない――ううん、ぞっとする。恐ろしい。考えたくもない。

　でも、私が相手をしてきた、私が倒してきた、私が殺してきた敵機、敵陣営も同じなのだ。
　あの中の何人が生きていたか。そんなの知らない。関係ない。
　仕事だった。ハイドラライダーとして下された任務。それをこなして、戦果を得て、報酬を得る。
　そういう仕事だ。

　お兄ちゃん。
　お兄ちゃんも同じ仕事をしていたはずだ。G.I.M.S.さんは、お兄ちゃんと私はよく似た戦い方をしていたと言った。私の方が前には出るらしいけど。お兄ちゃん私みたいな癇癪持ちじゃなかったもんな。
　明るく、優しい。場の雰囲気を良好にする性質のある方。それが彼の、お兄ちゃんへの評で、私もそんな風には思ってた。場の雰囲気を良好にする、っていうのはちょっとよく分からなかったけど、だってまあ相手が相手だったし。
　でもお兄ちゃんがいたら私はほっとした。そういうところなんだろう。
　そういうお兄ちゃんも、人を殺す仕事をして、

　そして最後は殺されたんだ。

『……お兄ちゃんは、――』

　どんな風に死んだんですか、なんて、流石に聞く自信がなかった。
　多分。私はそれで折れることは、多分ないと思う。折れるんならもっと前だ。
　お兄ちゃんが死んだって知らされたあの時だ。
　目の前が真っ暗になって、嘘だってなんにも信じられなくなって、信じたくなかったこともどこかで自覚してて、でも否定さえすれば、信じなければお兄ちゃんが死んだこともなくなるんじゃないかってバカみたいな夢さえ見たあの時だ。
　あそこで折れなかったから、私は、

　――私だって、一人で。

　一人で。
　一人で生きていく。そう決めた。決めることができた。
　だから、怖くても、どうしようもなくても、今更それを曲げるつもりだけは絶対にない。

　それでも、

「……お兄ちゃん」

　端末を放り投げる。ベッドに転がって目を閉じる。
　お兄ちゃん。優しいお兄ちゃん。穏やかで、当たり前だけど私よりもおっきくて、掌もそうで、温かかったお兄ちゃん。
　そのお兄ちゃんが、最後はどうなったかだなんて、

　――お兄ちゃん。私は。