ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ１０：寂しくてジェラシー』

　それはいつも通りの、何の変哲も無い、残像領域の朝。
　……のはずだった。


「……？」

　いつも通り『トリグラフ』のシステムを起動すると、モニタの分割された画面に映るのは、ひとりだけ。
　もう一方は暗転したまま。

「セロ、お前一人か？　エルシスはどうした？　また『コルヴス・コラクス』の所へ遊びにいっているのか？」
『……』

　彼は無言のまま、残されていたメッセージを再生する。

『家出します』
「……は？」
『腹いせに、今回のパーツはまたザリガニを組んでおきました』
「……は！？」
『「トリグラフ」には、セロがいれば充分でしょ』
「ハアアアアアア！！？」
『元の世界でもそうだったもんね。僕が相方じゃなくても、ユリアはちゃんとやっていける。だから僕はもっと相応しい相手を探しにいきます』
『僕を本当に必要としてくれる相手をね！（ブツッと音声が切れる）』
「ハア！？　何言ってんだ！？　何を言ってるんだこいつは！？」
「ウン百年前のジャパンの、『実家に帰らせていただきます』のノリか！？」
『……推測だが』
「うん？」
『俺が来た事が、エルシスに嫉妬心を与えてしまったようだな』
「嫉妬」
『同じ種類の動物を飼った時、人は少なからず、後から来たほうを可愛がってしまう。前からいたほうが「見捨てられた」と感じて、従わなくなったり、最悪姿を消したりする事は、よくある話だ』
「つまりエルシスは、私がお前を贔屓していると思って、すねたと……？」
『端的に言えば、そうだ』
「あほか……本当にあほか……？」
『だが、あながち間違っていないとは言えないだろう』
「え？」
『配慮をしなかった俺にも非があるが、お前は俺が来てから、エルシスより俺の提案を呑んでいただろう。「頼られない」という事は、我々接続者（スタブ）にとっては、矜持の問題だからな』
「……あ」

　自惚れていた部分もある。少しくらい目を離しても、彼の心が自分から離れる事など無いだろうと。

「探しに行かないと……。いや、だが、どうやって電脳空間を探すんだ……？」
『「コルヴス・コラクス」のパロットに協力を仰ごうと思ったが、彼とも連絡が取れなくてな。コルヴス本人に訊ねてみたが、「さあ、どうしたんだろうね？」と笑うばかりで、思わしい答えをもらえなかった』
「そんな……」

　焦れてキーボードを叩いていると、モニタの片隅にメッセージ着信のアラートが現れる。パロットからの連絡かと思って開いてみたが、中身は『組織』からの出撃命令だった。

「くそっ、こんな時に！」
『仕方無い。今回は我々二人でやる』
「それしか無いか……！」

　嗚呼、馬鹿たれ。子供かお前は。
　狭い操縦棺の中からは見えない天を仰いで、罵倒の言葉を脳内で叫んだ。

To be continued...

Reinclaft-Millia Service

数年前にできた、残像領域の片隅の整備屋。
相場よりほんの少し高い値段で、ウォーハイドラのみならずライダーも整備する。
早い話が、機体のメンテをしに来るついでに、店主が常々作りすぎる飯のおこぼれにありつける整備屋である。
飯だけの利用も歓迎だが、この店にはメニューはない。店主が作りすぎたその日の飯が出されるだけである。

！店および店主（ENo.4）の既知可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/milliapede/union.html