ENo.0405　冷凍室inカマキリ

カツンカツン――。
通路に硬質な音が響く。
肌を刺すような冷たい空気が満ちる真っすぐな通路。その先に白い子供の姿がある。さらさらと絹のように細く白いセミロングの髪が、ダウンジャケットの襟からこぼれて何房か背中に垂れている。
奇妙な姿だった。ダウンジャケットのサイズは子供の体より二回りほど大きくて、まるでポンチョのようになっている。そしてそのジャケットから伸びる白くか細い脚は、武骨なブーツに覆われている。音の正体はそのブーツからだった。
子供は急ぐわけでもなく、ゆっくりと歩みを進めている。霧が見せる亡者の幻覚のような頼りない足取りだが、冷たい足音がその存在を現実たらしめている。

「そういえば何日あってないんだっけ……？」

ふいに子供が小鳥のさえずりのようなささやかな声でひとりごちた。
相棒である『彼』は極度の出不精だ。機体の中で過ごし全く出てこない。一応携帯している通信機には出るものの、こうしてこちらから出向かなければ姿を見せてくれないのだ。
通路――動力室への通路は、目的地に近づけば近づくほど気温が下がっていく。元々この機体が冷気を原動力に動いているのだから当然といえば当然だ。薄く氷を張っている壁が進むごとにどんどん厚みを増して白く曇っていく。

『ま――――』

手に握っていた通信機が急にノイズ交じりに音声を垂れ流し始めた。

「わ！　びっくりするじゃない。急に通信をいれないでよ」
『また来たのか。ご苦労なこって……』

皮肉るような少年の声。けだるげな少し低めの声だ。

「差し入れをもってきたの。いるよね？」

子供が通信機を持っていない方の手をかかげた。見えない観客に見せびらかすように掲げられたその手には、布でくるまれた四角いものがぶら下がっている。冷たい空気と反応して湯気が廊下に尾を残していっている。おそらくお弁当の類だろう。

『いらん。帰れ』

しかし返ってきたノイズ交じりの少年の声は色の良いものではなく、白髪の子供は悲しそうに腕を下げた。カツンカツンと足音が少し遅くなったが、それでもまだ歩いている。少しして、止まった。

「もう着いちゃったけど……」

子供の前には大きな金属製の扉が立ちふさがっていた。子供の背丈の倍近くある大きな扉。
見上げると扉の上にはプラスチック製のネームプレートが掲げられている。『冷凍室』と印字されている。かつてはそういった目的で使用されていたのだろう。
スイングドアは押せば簡単に開きそうだが、子供は進まず、通信機に話しかけた。

「ねえ、ねえ」

扉の向こう側を見透かすように見つめていると、長い沈黙の後、ようやくノイズが流れ始めた。

『あっち行ってろ』

それからは話しかけても返事をしてくれる気配がまったくないので、子供は諦めて、四角い包みを扉の前にそっと置いて立ち去った。
カツンカツンと足音が果てしなく小さくなっても、スイングドアはぴたりとも動かなかった。

～かき氷はじめました～

謎のノボリが掲げられている。
場所はウォーハイドラが格納されている倉庫から少し離れた小さな物置。
かき氷がはじまる前は何があったのか、それは誰も知らない。ただ分かることはこれからかき氷がはじまるということだけ。

メニュー
△霧　………　味なし。みぞれではない。やや溶けてる。
△電磁波　…　味なし。ピリッとする気がするけど何もかけてないはずだからそれはPTSD。
△廃油　……　味あり。害あり。服に付くと大惨事。悪魔のかき氷。


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