ENo.0066　全くダメなウォーハイドラ乗りの男

『こんな所でも花は咲くンだぜ』。
『だからどうしたって話だけどな』。
『俺は？　俺は別に食えないし、ここじゃ花は荒らされるさ』。

　
　“残像領域”の片隅にある寂れた酒場。
　飲んだくれが壁にシミを作りながら寝込んでいる。
　あるいは店名の通り、掲げられたダーツボードに投じ続ける客もいる。
　あるいは三文にも満たない噂を流す客がいる。

　別にどうということのない、単なるクソッタレどもの休憩場だ。
　その気になれば誰かを歓迎するし、誰にも干渉しない空気が流れている。
　時たましゃがれ声や、低くうなだれたような声の雑談が聴こえる。

『死にやしなかった、あのハゲ』。
『俺は賭けてないからノーカンでいいぜ』。
『妙に優しいじゃねエか。明日は晴れか？』。
『ここが晴れたらどうなる？』。

　誰かの夢が覚めるのか。
　この霧は、頑として晴天に恵まれることがない。ある時は硝煙の雲に巻かれ、ある時は冷酷な驟雨が降りしきる。霧の隙間に見た空は、地獄に垂れた一本の糸のようだったと誰かは言う。
　話し相手の男はここの住人らしいが、飲んだくれの男は定かではない。ある時ふらりと現れた。

『――――、アー、機体が動きにくくなるな』。
『そればっかだな』。
『それしかないだろ』。

　男は行く宛もなく、寝床はぼろ小屋だのその辺の地べただのと言われている。
　“残像領域”、どこからか人が現れ、どこかへと誰かは去る。生きて居残る者も、この世界の幻影となって居座り続ける者も居るには居る。
　それがまるで『この世界が夢のようだ』と男が謳い続ける要因だ。戦果を挙げた末に何があるのか、約束された立場やただ強みへの頂点に征くのか。

　彼には、さして目標がない。
　そういう人間も居るだろう。

『そういやお前はどうやって稼いでンの？』。
『ジャンク漁りだな。大体そこらにいいパーツや残骸が落ちてりゃ、闇市で売れるぜ』。
『うわ、やだァ、地味ィ。そういう小汚いのは趣味じゃなーい』。
『うっせえ』。