ENo.0066　全くダメなウォーハイドラ乗りの男

『慣れないことすると疲れるぜ～』。
『マアなんか、ミステリーなパワーって奴が働いたから軽微で済んだが』。
『通常運転で安全にゴー』。

　
　“残像領域”の片隅にある寂れた酒場。
　飲んだくれが壁にシミを作りながら寝込んでいる。
　あるいは店名の通り、掲げられたダーツボードに投じ続ける客もいる。
　あるいは三文にも満たない噂を流す客がいる。

　別にどうということのない、単なるクソッタレどもの休憩場だ。
　その気になれば誰かを歓迎するし、誰にも干渉しない空気が流れている。
　時たましゃがれ声や、低くうなだれたような声の雑談が聴こえる。

『――未確認機体についての情報ゥ？　知ってたらこっちが高く売るっつーの！』。
『だよな』。
『まあ、その、なんだ。叩きゃ壊れるだろ』。

　男の言い分は最もだ。殴れば壊れる、撃てば壊れる。
　未確認ではあるが、主武装や機体のタイプぐらいは事前に割り出されている。
　あとはそれに応じて攻撃するだけで、墜ちる。

『そっから出たジャンクが物語る――って感じでもなかったしな』。
『俺ァそこまで機械に詳しくネエ。ただ、マンモスみてえな古臭い匂いがしたぜ』。
『“年代物”って訳かい』。

　肩を竦めるのは棺桶（ハイドラ）乗りの男。
　原動機に何かしらの奇異な点が見当たるらしいが、まるで補佐官の言うように現行の機体とは相性が悪い。
　そうでない男は、おとぎ話に出てきた《騎士》のようだと物語る。

『ナイト？』。
『そうだ。今の棺桶が出て来る以前、もっと以前か。その原型になったモンは当然ある。古いバージョンってことだな』。
『ってことは、最新もあるのかね』。
『そりゃそうよ、技術っつーのは足踏みしてたらあっという間にカビが生えるぜ。その古代技術が現在を超越するようなトンデモだったら、技師どもはよだれを垂らしてレンチを振り回すわな』。
『嬉しそうに言うねえ。アンタも実はそのクチかい』。
『ま、もとは技師志望だったモンでな。手先が悪いの何の、合わねえから諦めたけどよ』。

　口先と情報の早さだけは一流だ。これは反応を鍛えたライダー並みに早い。
　しかし、やはりそういったものに興味のなさそうなライダーは“それなり”の酒を瓶ごと呷って盛大に息を吐いた。