ENo.0389　ムジカ・ネネウ

「あなたの部屋、女の子が住んでるんじゃないの？」

基部スラスター【ステラ】。
これに載せ替えれば、確かに今までにない機動力を確保することができる。
今以上の戦果を上げるならば、これに載せ替えない手はない。
コンガラサマの機動力はある特異点に達し、他に追随を得ない猛攻を与えることだって可能だ。

「ねえ、聞いているの？」

その代償としての薄い装甲。
これまで使用していたタイプの操縦棺よりも、遙かに装甲が薄い。まず普通のハイドラでは載せることのないモデルだ。
今まで許容できたような被弾もまた、命取りになりえるようになる。

「ねえってば」
「ん、ああいや、住んでねえよ」
「でも化粧品とかあるし」
「気にするなよ」
「ねえ、続き、する？」
「んー、ちょっと休憩だ」
「そう？　あなたがいいなら別にいいけど」

ムジカは現状の戦果で満足していると言っていた。
だからこれ以上の無理をする必要は、ないのかもしれない。
しかしひとたび上手くいきだすと、欲が出てくるというのが人間というものだ。

「ハイドラ乗りの人って、変な人が多いよね」
「そうかな」
「うん。でも、払いがいいから大歓迎だけど」
「でも、すぐにいなくなるだろ。死んじまってさ」

ただ生きながらえるために、俺は戦闘機乗りからハイドラ乗りに転向した。
だが結局、薄い装甲、ブースターは４つも連ねて、高速の世界に突入している。

「うん、まあね」

仕方がないだろう。
上が見えてしまったんだ。
いける、そう思ってしまった。

「あなたも死んじゃうの？」
「死なねえよ。……二回目、やろうぜ」

俺は返答を待たずに、女の口を塞いだ。
唇の柔らかさ、絡む舌の熱さ。しがみつくように背へ回された手。
高い金を出しているだけあって彼女の容姿は磨かれていた。折れるんじゃないかってくらいにくびれていて、驚くほど軽い。けれどもついているところにはしっかりと肉がついていて、それが俺を満足させる。

「お前、いい尻してるよな」

全員がハイドラ（夜叉）に携わる宗教団体。
辺境にコミュニティが存在し、出身者は基本的にいずれもがネネウを名乗る。
教義は他ハイドラの一切の破壊と無力化。