ENo.0493　陶玉

―地には灰色の廃墟群。見上げるは押し潰すような曇天。
どこまでも閉塞的で、だけれど果てのない灰色の世界のあいだ。

ここは、戦火に廃れ、今は誰も訪れる人のない廃ホテルの屋上。
霧のせいか、緩やかに腐食したのであろう金属のフェンスが、
網目をほろほろとほつれさせて天を仰ぐ。
静止しながらも動的な曲線を見せるそれは、蔦植物のようだ。

その外側。踏み出せば落下するその境を目前に、少年は立っていた。



「…………。」

(　―ここは、現実的な世界だ。

　ときどき、これまでの事がひどくよく出来た話で、まるで夢物語のように思えるのだ。

　はじめに教育があった。そうして得た電脳への理解、情報処理能力は僕の持つ唯一の武器だ。

　だけれど、たったひとつの武器で十四そこらの子供が国家を裏切り、人を騙して、
　それでも生きて行けるものだろうか。

　この場所で、生まれてはじめての物理的な死を感じて、その思いはまた強まる。

　―ここは、僕の世界よりもよっぽど現実だ。)

[tao-yu?何を目的とした行動？]

「……ン？」

「…………。」

一拍の沈黙から、

「ここをレーダー基地とする！」

そう宣言すると、陶玉はハイドラのパーツであろう小型のレーダーを掲げた。

(ここでも、生き切ってやろうじゃないか。唯一の武器で。)
「まずは、あの世界で通用した生き方を出来るだけの情報網を、作り上げてやる。」


決意を言葉と溢す少年の背を、緩やかに霧を伴う風が押すのだった。