ENo.0140　A.S.N-O AR-X III

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霧の中。瓦礫の上。
無残に散っていった多くの機体と、その中で潰えたライダーたちの声の残響、その中央。
青黒い機体は霧中灯のある頭をぐるりと回し、自分の周囲を一通り照らした。
光は分厚い霧に削られ、減衰し、残骸の上に鈍い影を作る。

何もかも、何もかも。
この状況そのものが、機体に与えられたデータベースにはなかった。

戦闘の終わり、戦場が戦場としての役目を終えたその場所で、その機体はまだ静止していた。
遠くエンジンの音がする。帰投する友軍が遠ざかっていく。

戦闘の開始時。戦闘の終了時。戦闘中には随時。
或いは、緊急事態が発生した時。
同型個体間で送受信しあうよう調整されている生存通知は、この領域で再起動してから、まだ一度も送信に成功しない。
自分を除く、同型9機の反応を、受信することもない。

AIは考えていた。
感傷や思い込みの影響を受けず、事実を事実として判断できることは、機械が持つひとつの強み、人間との相違点である。
ゆえにAIは、こう判断するのが妥当であろうと、感傷を排して結論付けた。

他の9機が行方不明なのではなく。
3号機が、行方不明になったのだと。

遠くエンジンの音がする。
それは、受信する距離に関係なく。
その中に、かつて戦場で並んだ、9機のエンジンの音はない。

ここには窮屈な檻はないが、安全な籠もない。
霧の戦場は自由だ。
霧の中にある限り、われわれは自由な鳥なのだ。