ENo.0176　クロムノート・ウェルサキオン

私の中に入り込んだ彼の機械人形は、歪な人型を模していた。
他の人形に比べるとやや小さなシルエット。
楕円を描く足には人で言うところの踵の部分に小さな車輪がついており、背中の噴射口から青白い炎が上がればしっかりと地面を噛み締め、回転し、抉りながら、人形を驚くほどの速度で前方に運ぶ。
下手をすれば人形ごと吹き飛びそうな速度だったが、彼は慣れた様子で人形を低姿勢の状態に変え、首をやや上向きにして前方を視界に収めている。

「なんだ？　霧が変わった…？」

異常に気がついているのか、人形の中にいた彼は油断なく周囲に目を配り、額から脂汗を流していた。
もしかしたら私が見ている事にもなんとなく気付いているのかもしれない。
これは恐らく、本能的なものだろう。直接会った時にも、ひどく怯えていたのを思い出す。

――可哀そうに

あんなに怖がらせるつもりはなかった。
私にとってはほんの単なる挨拶、顔合わせのつもりだった。
ある日、気づいたら私のものになっていたなんてあまりにも可哀そうで気の毒だから、顔くらいは見せておこうと思ったのだが、かえって警戒させてしまったかもしれない。
今のこの状況にしても、いつもよりほんの少しだけ、近くで戦いを見てみたいと思っただけなのだがなかなかうまくいかないものだ。

私は少しだけ様子を見た後に、間近での見学は諦めて彼を私の中から出してあげた。
私の中から出た後も、彼は油断なくきょろきょろと周囲を巡らせた後に、一度だけ私の方を振り返る。
その仕草が少し可愛く思えたので手でも振ってみようかと思ったが、余計な事をしてさらに怯えさせるのは可哀そうなのでやめておいた。

走り去って行く鉄人形の姿は、すぐに霧に飲まれて見えなくなる。
けれど、その背からは1本の霧の紐が伸びていて、母子がそうであるように私の中に繋がっていた。
私にしか見えないそれを手繰り寄せ、弄びながら思考する。
これであちらも宣戦布告がなされたと気が付く事だろう。では、彼等は次に何を仕掛けてくるか？
彼は何をして、その果てにどうなってしまうのか？
いずれにしても、彼にとってろくなことにはならないのだろうけど。

「…ああ。可哀そうに」


人の形を取りながら、私は笑い、呟いた。

戦場には、今日も霧が満ちている。

戦争！　戦争！　戦争だ！
喜べよ下種畜生ども。地獄のラッパが響いてきたぞ。
俺達が呼ばれている。
多くの血を流すため、多くの命を踏み潰すため、多くの死を広げるために。地獄の戦鬼が。

よう戦友！　アンタが求めるのは血か？　金か？　闘争か？　栄誉か？　はたまた正義なんて求めてるのか？
まあ、いいさ。どれだって。御大層な理由だろうがクソみたいな理由だろうが、やる事も同じなら逝く場所も同じなんだからよ。

どうあれ、ここにいるって事は俺と同じく戦争をより盛り上げたいってイカレ共だ。
死体と涙と恨みと鉄屑を空高く積み上げたいって、死んだら地獄行き間違いなしの畜生共だ。

同じ死体を漁る野良犬同士、せいぜい仲良く分け合っていこうぜ、なあ？

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ユニオン購入は何かしら意見あるまでは機動力＋3%を予定しています。