ENo.0367　エリオット＝ウツロギ

　電子砲に撃ち抜かれ、制御を失った機体が熱量剣で叩き切られていくのを他人事のように眺めていた。
　HCSの警報が鳴り響く。
　こいつは悲鳴だ。
　ハイドラの悲鳴。
　もう動けなくなるかもしれないという恐怖。
　ハイドラは単純な自我を持っている。
　戦い続けること、その望みを叶えることこそ本望。
　だからこいつは、俺を。
　許すつもりがきっとない。






『へえ、あんたがホルニッセ。結構やるじゃない？』
「ワンオフの高級機乗りが調子乗ってんじゃねえぞカスが……！ 俺が負けたのはお前じゃない、そのコスト度外視のバカ高ハイドラにだ」
『おーおー。すごいね、まるで野良犬だ。ホルニッセ《スズメバチ》なんてお上品な名前、君には似合わないね』
「知るか。名前なんて呼びたいやつが好きに呼べばいい」
『そんなことないよ。名前には言霊が宿るんだ』
「下らねえ。言霊とやらが戦場で弾除けになンのか？」
『なるさ』

　そいつは黒い瞳を星のように煌めかせて確かにそう言った。

『私は空木小夜。君の名前を教えてよ』
「……エリオット」
『名字は？』
「ねェよ、そんな大層なもん」
『ねえエリオット』
「気安く呼ぶな」
『君の大切なものを教えてよ』
「何も」

　俺は答えた。

「何もない。だから俺はここにいるんだ」

　そのとき、あいつはどんな表情をしていたっけ？

残像領域の端、無法者やハイドラライダーの集う酒場。
人の生き死にを賭けのタネに、今晩も乱痴気騒ぎが繰り広げられている。
合成アルコールと正体不明のジャーキーが売れ筋。
まともな人間は寄り付こうともしないだろう。

マスターに向けて大ブーイングが飛び交っている。