ENo.0029　猫目 黄金

　件名：なし

　From 腕無し
　To 琥珀

黄金が撃墜された。まだ死んじゃいない。

ハイドラは安全装置がある。搭乗者の入る操縦棺に衝撃を受けたハイドラは、戦闘機能を完全停止し自己防衛モードになる。頭のネジがイカれた奴らは限界まで……自分が本当に死ぬまで戦うために安全装置を取っ払ってるのもいるみてぇだが、黄金は利口だったみてぇだ。
アイツは完全に機能を停止したボロボロのハイドラと一緒に回収されたよ。だが今回ばかりは、黄金も無傷とはいえねぇ。傷だらけだったよ。目も鼻も耳からも血が出ててさ、可愛い顔の毛に血がにじんでてさ……最初は順調だったんだ。旋回を駆使してミサイルをぶち込む姿はなかなかよかった。だけど、機動力の遅さを逆手にとられて集中砲火を浴びた。

一日経って、黄金は目を覚ました。どこか上の空だった。死んじゃったのかな？なんて馬鹿みたいなこと言いだすから、そんなわけねぇって言ったけれど……アイツ、そのあとなんて言ったと思う？死ねなかったなって、言ったんだ。俺さ、あんまり驚いちまったもんで何も言えなかったんだ。
俺の知ってる黄金は、すごく元気だった。明るくて、賢くて、自分が死ぬんだなんて、そんなこと言いだすようなやつじゃないって、思ってたんだ。俺はアイツのことをわかっているようで、わかってなかった。あんなに苦しそうにしてるのに気付けなかったんだ。
それからすぐ発作が始まって、何もいえないまま俺はアイツの看病をするしかなかった。

二日目になってようやく落ち着いて、ちゃんと話せるようになったから、俺は改めてアイツを叱ったよ。二度と死ぬなんていうなってさ。俺、弟にあんな風に怒ったの初めてだった。他人ならいくらでも殺してきたし、自分のことだって嫌いだった。だけど黄金のことは大好きで、大好きなやつにあんな風に怒れたことに驚いた。
それからあいつを無理矢理外に連れ出して、いっぱい遊んだよ。黄金のやつ、初めは迷惑そうな顔してたんだけどさ、そのうち本当に楽しそうな顔してさ。愛おしい、という感情がまだ残っていたことに驚きを感じた。楽しかった。本当に楽しかったんだ。こんな気分は久しぶりだった。
結局これも自己満足さ。黄金を失いたくない俺のわがままさ。だけど、願うのは許されないのか？俺はただ、アイツが幸せになってくれれば良かったんだ。

俺、頭が可笑しくなっちまう。黄金が可愛くて可愛そうで愛おしくて大好きで。もう放したくない、俺の腕で抱き締めてずっと一緒にいてくれ、戦わないでくれ、泣かないでくれと愛を囁きたい。
でも、俺はこんなに汚い。醜い。アイツを抱き締める腕も、でかくて歪で壊してしまう。憎い、この無力な腕が、大好きなものまで壊してしまうこの腕が憎い。

俺は一体、どうすればいい？

　--- 2017.6.23 ---

残像領域に幾つも存在するジャンクヤードのうちの1つ。