ENo.0038　『至極の悪夢』ハンブルグ・ダーウェン

16週目。
なんとこんな辺鄙なところにある拠点に、新人ライダーとやらが転がりこんできた。俺とてライダー歴は浅いのだが…戦場の心得ぐらいはあるので、鍛える事ぐらいはやろうと思う。しばらくは戦場に連れまわすだろう。

いよいよ、バイオスフェア攻略戦。…さて、次なる奥の手は如何なるものやら。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――ハンブルグ・ダーウェン『残像記』より



※※※



ダーウェンたちの拠点内、ガレージ。
そこに鎮座するハイドラ『ヴィオラーケウス』操縦棺に、ダーウェンは搭乗していた。別に出撃する訳ではない。では、何故いるのか。
その答えは……

『あーるーじーー？？？？』
「いやマジで悪りぃ！！俺もあんな事になるとは思わなかったわ！！！」

…ヴィオラーケウスの管制システム『アメジスタ・カーネル』に、長時間の説教を受けていたのであった。
1時間にはなろうかという説教の後、アメジスタはやれやれと言わんばかりの声で続けた。

『はぁ…だからアレほど稼ぎも大事にしてくださいと言ったのに。言いましたのに…』
「……稼ぎに走ろうとした矢先にコレ、じゃなあ。気ぃつけるわ」

事は先週、出撃する前のこと。ダーウェンは金欠に陥っていた。
焼夷機関砲の出費が激しすぎる、との事で一時禁止されたがために、プラズマ砲を製作させていたのだが。
製作担当の整備士から、突然こんな連絡が。

《ダーウェンの旦那ー。プラズマ砲の部品に使う費用足りなかったんで、間に合わせになっちまいやしたわ》

……そう。本来はプラズマ砲の部品のために残さねばならなかった資金を、パーツ性能強化のために先行投資してしまったのだ。結果、数世代分劣化したプラズマ砲が完成し、パーツ性能強化をしない方が強かったという盛大なコントをかましてしまった。

『今回も焼夷機関砲は禁止ですよ？バイオスフェア攻略戦であってもしっかり稼いで来てください。最前線に立つのも禁止です！』
「そいつは困るアメジスタ！最前線にいてこその俺、そうは思わんか！？」
『ダーメーでーすー。機体整備費もバカにならないんですよ？…冗談でしょうけどね』
「…流石にバレてらぁな」
『貴方はアホです。好き好んで最前線に立ち続け、費用を惜しまず戦場に貢献する。少しは手を抜いて稼いで欲しいぐらいに。…だけど、同時に【自分が最前線に立っても役に立てるか】の見極めは出来るでしょう。私よりもずっと、その見極めは正確です。
今回の戦場は、ヴィオラーケウスでは対処できない霊障攻撃が中心と考えて良い。前に立とうものなら、何をするでも無く勝手に沈む。被弾前提で臨むこの機体では、前に出ても役に立たない。…違いましたか？』
「…大正解だ、アメジスタ。もうすっかり、俺の事は知り尽くしてるな？」
『何年貴方の管制やっていると思います？』
「24年目だったな。ハハハ、娘と変わらんなぁ！」
『誰が娘ですか、誰が。にしても、こればっかりは敵に感謝しますよ、ええ。お陰で焼夷機関砲を禁止するだけであら不思議！収入がガッポリ頂けます！』
「癪な話だが、認めるしかないわな。…でも次はいつも通り行かせろよ？」
『仕方ないですね…。所持資金はちゃんと見ておいて下さいね、次やったら物理的対処を取ります』
「怖え娘もいたもんだな。ま、好き好んでお前の機嫌を損ねてえ訳じゃねえし、気をつけらぁな」
『だから、娘じゃないと…』
「俺からすりゃ変わらん。随分出来のいい娘ではあるけどな。…んじゃ、出撃前の休憩に入るぜ」

説教されていた時とは打って変わって、アメジスタをあしらいながらダーウェンは操縦棺を後にした。
残されたアメジスタは、１つため息をついた。…人間とは違い、音声はおろかため息でさえもつく方が手間もかかるのだが。そうせずにいられなかったのは、『人間の性だろうか』。
誰もいなくなった操縦棺。必要もなく、アメジスタは音声を出力した。

『娘呼ばわりなんて、本当に心外です。私は、貴方の隣にいたいというのに……』

Cadenas射撃部になりました。