ENo.0585　赤桂・藍桂

△月○日　くもり
　この土地にやってきて○日目。今日の朝食は食パンとベーコン（カビるから早めに食べたほうがいい、との警告は真実だった。ありがとう、陸運局のおじさん）、オレンジジュース。
　“改修が終わったので、トレーラーを引き渡す”と言われた。ちょっと大きすぎるので宿のそばまで持って来られない、悪いけど指定の場所まで行って受け取ってほしい、その代わり引き渡し場所のガレージと備え付けの設備はライセンスが有効な限り貸与するので自由に使っていい、とのことだった。
　指定されたガレージは街のほんとにはずれのほうにあった。向かっている最中は、なんというか、スラム街とか、そんな感じの呼ばれ方をする場所なんじゃないかなここと思ったけれど、治安のよしあしでは別に街中とかわりなかった。
　それは放棄された町工場みたいな建物で、二人のスタッフさんが僕たちを待っていてくれた。彼らと話をして、書類にサインをして（どんな難題がどれだけ詰め込まれているかと内心覚悟して受け取ったんだけど、二枚しかなかったうえにどっちも余白のほうが多かった。ただのちょっと大きい宅配便受け取り票みたいな）、トレーラーと対面した。ここから先、その瞬間の気分を正直に文字起こししてみる。
　
　えっ。なにこれ。
　ロボ？

　ロボだった。大きな四本の脚がついていて、僕の背丈の何倍も高い位置にルーフがあった。
　見覚えのあるメーカーエンブレムとか、ペンキで殴り書きしたエアコンガスの入れ替え方のメモがちゃんと残ってて、そのおかげでこれが僕らのトレーラーなんだとかろうじて理解できたり、逆にすごい違和感を覚えさせたりしていた。っていうか待って、なんで大きくなってるの？　いや大きくなってるのはもうこの際いいんだけど、なんでわざわざエンブレムとかメモ書きまできちんとスケールあわせてあるの？
　もともとのタイヤだと絶対車重を支えられないから仕方なくてね、まあ気に入らなければ換えられるからさ、ハハハ。スタッフさんの年かさっぽいほうが笑ってたけど、そういう話じゃないと思うなあ、と思った。
　
　結局、唖然としてる僕（と、大喜びで車内に突撃していった■■藍桂）をそのままに、スタッフさんたちは帰っていってしまった。　キャビンが記憶のそれに比べて広すぎることくらいしか理解が追いつかなかった。

　いま、彼らが置いていってくれたスペック表とか、パーツのカタログを見ながら、日記をつけている。
　ちょっといろいろわけがわからなさ過ぎて、書けそうなことがあんまりない。とりあえず、もう少しハイドラについて勉強してみるつもり。
　
　ハイドラライダー。
　あのままいるのとどっちがよかったのか、なんだか僕には判断がつかない。

　※書き忘れ！　今日の昼食は合成ハムとサラダのブロック、夕食はトマトスープ仕立てのポットと残りの食パン、砂糖煮にしきれなかったベリー類。

　書き忘れその２。貨物用につけてたクレーンがなんかロボットアームみたいになってた。あと車載カメラ代わりにつんでたビデオカメラがなんか多機能になってた。どっちもすごい動く……
　書き忘れその３　エンジンの燃料、水？　え？
　その４　ベッドまで大きくなってる……