ENo.0066　全くダメなウォーハイドラ乗りの男

『うるせえ』。
『うるせえうるせえうるせえ』。
『うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせえ』。

　
　“残像領域”の片隅にある寂れた酒場。
　飲んだくれが壁にシミを作りながら寝込んでいる。
　あるいは店名の通り、掲げられたダーツボードに投じ続ける客もいる。
　あるいは三文にも満たない噂を流す客がいる。

　別にどうということのない、単なるクソッタレどもの休憩場だ。
　その気になれば誰かを歓迎するし、誰にも干渉しない空気が流れている。
　時たましゃがれ声や、低くうなだれたような声の雑談が聴こえる。
　
　本日のニュ――す本日の――スです本日のニュースで――

『おい、このポンコツラジオ壊れた？』。
『…………うるせえ』。
『ンなイライラすんなって、聞こえないフリしねえとお前ガキに退行しちまうぞ』。

　本日のニュ―――本日のニ――スです本日のニュ――――本日のニュ――です本日のニュース――本日のニュースで――のニュースです本日――

『は？』。
『こいつは本当の幸せなんざ教えてくれねえんだ……』。
『お前のオツムまで壊れたみてェだな』。

　本日のニュ――す本日のニュースです本日の――――です本日の――スです本――ュースです本――のニュース――す本日のニュースです本日のニュースです――――ス『ああああああああああああ！！！！！』

　ガン、ドン、バキッ。

『“次の電磁波も判らずに”ってか……』。
『****！！！　*****ーーーー！！！』。

　荒れ狂う男の様子も余所目に酒をかっ食らう男は、吹っ飛んだ無線電信の破片を避けて空いたカウンターを眺めていた。
　暫く不在にするという店員の代わりは居らず、元々無法地帯であった店内は更に混沌としていた。
　とはいえ、無銭飲食しようものなら他の店員が然るべき対応をする程度には秩序は保たれている。

『未知のパーツに、可能性を孕んだ蛹か……』。

　いずれ羽ばたくからには、下僕を従えて世界に君臨するのだろう。
　その中身は、少なくとも男たちは知らない。
　誰かは既にもう知っているのかもしれない。

『……げっふ』。
『あとで弁償代払えよ』。
『ダミット！　あんなポンコツラジオ、どうせ明日にでも壊れてたぜ』。

　いつもより濃いショットグラスの中身を揺らして、二人の男は明日を見る。
　きっと安楽に満ちた夢よりも悪夢に苛まれながら目を覚ますのだろう。
　それでも速やかで心地の良い眠りにつくために、つい飲んでしまうのだ。これは何よりも日々の糧になる儀式。
　
『アア――反吐が出る』。