ENo.0406　ファイブカード

　
バイオコクーンと呼ばれた繭は、産み出されたバイオ兵器とともに驚くほどあっさりと沈んでいった。
発掘された未知の技術、その粋を見せる暇も与えられずに。否、私たちが与えずに。

結局のところ、失われた技術は失われたままだったし、かの《辺境軍閥》が多くを犠牲に得た結果は不完全な代物に過ぎなかったのだろう。
徒花を摘むような戦いだった。あれが実を結ぶ道はあったのだろうか。
───……



帰投後に整備を頼もうとして、『ファイブカード』は傷一つ受けなかったことを思い出した。
それに、弾薬費も経費で落ちる額を超えていない。

そうかあ、と独り呟いて操縦棺に戻る。
きっと、いつもはあまり使わない白兵戦用のパーツを持ち出したのが功を奏したはずだった。

今回使ったこの粒子スピアという武器は、なんと弾切れを起こさない。
……もちろん知っていたけれど、実際に自分で扱ってみてやっぱり驚いた。
リロードの手間が要らないなんて！



───私は、できることなら遠くから射撃だけしていたい。
相手にうっかり近づいて、操縦棺越しに向こうの機体の乗り手の姿が見えるのは、ほんとうに怖い。どんな表情をしていようとも。

でも。
あのバイオスフェア要塞に居るのは、ただの繭だと聞かされていたし、
実際に踏み込んだ中にも繭の中身とバイオ兵器だけが待ち受けていた。人の影などどこにも見えず。
だからこそあの時は格闘武器を持って行ったし、それを気負うことなく振るうことが出来た。

苦手なものを徐々に克服していくような、そんな緩やかな達成感がある。
この調子で、普段の戦場でも少しずつああいう武装を扱えるようにならないだろうか。
弾薬費の節約にもつながるのなら。

来週はコロッセオの見世物になる仕事がある。
そこで、改めて格闘武器を使ってみるのもいいかもしれない。
なんで急にこんな気持ちになったのかよく分からないけど、一応こういう仕事で食べていくなら色んなことが出来たほうがいいよね。



……そう暢気に考えていたのが……数日前の話で…………。

かつての乗り手たちの遺したもの。

今は大型のレーザースコープとしてここに在る。
常より射撃の訓練、あるいは実戦に用いる者がいる。