ENo.0579　オルハ・Ｄ・マインド

ここがハイドラの墓場だとしたら、そこに居るオレも死んだハイドラなんだろうか。

「哲学的、か？」
「理解しかねます」
「ああ、そうかよ…」

学習機能をオンにしたところで、学習するところが全然ないわけだ。
だからコマルが出してくる言葉は淡々としてそれでいて、会話がほぼ続かずに終わる。
（人工知能と話をしようっていうのが間違ってンのか？）
でもおおざっぱなナビゲーションではあるが嘘を教えてくるわけじゃない。

「…よし、じゃあ次は、あれだ。まだ機能しそうなハイドラのパーツを探知してほしい。ここにあるやつは錆びてるのもかなりある。全部使えるわけじゃないだろうけど、全部使えないわけでもないだろう。お前みたいにさ」
「ピピッ、動作可能なハイドラパーツの探知を開始します」

そこから結構大変だった。探して、組み立てて…って言ってもハイドラそのものをよく知らないからなんとか出来そうなものをそれなりの形にしたという感じだ。
見た目は多少趣味が入ってるけど、まあまあかっこよく出来たと。
正確な日数は分からないが、10日…15？そんぐらいは経ってると思う。

霧は濃くなったり薄くなったりする。でもこの霧がなくなる日ははなかった。

一番大変だったのが"操縦棺"っていうのを探すことだった。

なんかしらないけど、それがなかなか見つからない。でもそれがないと乗るところもそうだけど、各パーツへ意識が…命令がいかない。

所謂、操縦室、操縦桿みたいなもんだと思うんだけど「棺」らしい。

主にパーツの山という感じだが、きっとこれが"ハイドラ"と呼べるものなのだろうと思えるぐらい綺麗に残ってるものもあったのだが、その棺だけがなかったり…。
とにかくパーツが足りなかったとしてもこれがないと動かないらしいから、それを探すのが大変だった。


棺の中は、とても静かだった。
無音ではない。
水の流れる音がする。

それがなんとも心地よく感じられた。

（出たくなくなる棺だな、これ…）

ともかく動かせるようになった。
歩いてたら何日、何ヶ月、もしかしたら何年かかるかわからない代わり映えのしないこのスクラップの山を抜け出すためにハイドラを動かす。
「ウォーハイドラへ接続……OK、機動します」
「うっ…おあ、うごいた…！」
オレが見つけてくっつけたのは"軽多脚"というものらしい。
サソリを模したハイドラが人間の足じゃキツい凹凸などへっちゃらだと言わんばかりに歩いて行く。
時には尻尾や腕を駆使しながら、とにかく進んで、進んで、進んで行った。
このスクラップの山が、ハイドラの墓場が終わる場所を目がけて。


―でも…もし、ここを出たとしても文明も何も無くなって、滅んだ世界だとしたら……――




今までにないぐらい霧が濃くなった。
「何も見えねぇ…」
「ガ…ガガッ…ピーーーー……」
「お、おいおい、しっかりしろよ！お前がいなかったらオレすごく困るぞ！？」
急にノイズが混じり出すコマル。こんな霧の濃い中でナビゲーションなしじゃどこにも行けない。
「ガ…ガ…ザッ…ザザッ…を、ザ…ザザ…しま…ザ…」
「…なに？」
「ザザッ……ハイドラを感知しまし…ガガッ」
「……え？」

霧が段々薄くなる。

そこに見えたのは無数のハイドラだった。

オルハが臨時で作ったユニオン。
反応をあげ隊。