ENo.0295　リゼット・フォーレ

諦めを知るというのはどういうことだろう。
この間から、少し、考えている。

あたしはママにはなれない。ママの高さには辿り着けない。
ライダーとしても、歌うたいとしても。
それはたぶん単なる事実で、変えようがない。
それを認めるのは諦めだろうか。構わず走り続けているのに？

もし足を止めることが諦めだとしたら、あたしが諦められるのはいつのことだろう。

あたしのやってることは、醜い足掻きにしかすぎないのかもしれない。
憧れに破れるなんて、世の中に山ほどあることだ。

あたしは夢破れて、そしてそのうち、それなりに暮らすようになる。
……そういうことになるのかも。
今はただ、そこにたどり着くまでを引き伸ばしているだけで。

だとしたら、今この時は無駄なんだろうか。
あたしはいつか、この時間を悔いることになるのだろうか。

わからなかった。
答えは出ない。
でも、答えを出さなきゃいけない気がする。
そう遠くないうちには。

ガレージ街の片隅に立つ小さな店。

飴色のカウンターはいつ見ても閑古鳥、マスターも留守がち。
キープしたボトルで勝手に一杯。珈琲豆は自分で挽く。
そんな店だが、金銭のトラブルは意外に少ない。
が、酔漢たちの殴り合いは起きないでもない。

紅色の髪の少女がカウンターでぼうっとしている。