ENo.0594　祟鬼漬クロガネ

「超防衛型戦闘システム……「ティタンフォート」仕様書？」

私は自分の個室内に乱雑に放り込まれていた資料を、訝しげに見つめていた。ティタンフォート……、なんだそれ。
そういえば広報ログに目を通してなかったな……、仲間たちの反応を見るにだいぶ前から告知されていたらしい。

子供の頃、私には自分の世界に閉じこもる癖があった。
とうの昔に克服したと思ってたけど、まさかこういう形で現れるとは……。

「超防衛型ねぇ……。」

頭を掻きながらパラパラとページをめくり、内容に目を通す。
技術者の性なのか、こういう資料を見るときはどうしても疑り深くなってしまう。
もしかしたら私の理想を実現する大きな力になるのかもしれない。そう考えると、余計に。

……なんというか「自殺志願者のための戦闘システムです。」って感じだ。
戦闘機動時に味方全員が狙われにくくなる。つまり最大限活用するためには高い機動力が必要になる。
高い機動力が必要という事は、それだけ耐久力や装甲をあきらめなきゃならないってことだ。

……上等だ。
このシステムなら私の我儘を、父さんの遺志を貫き通すことができる。
機動と装甲の両立、十分に試す価値はあるはずだ。

「とはいったものの、撃墜されたら意味ないもんなぁ……。」

最低限必要なAP、防御値、そこから導き出される最大限の機動力……。
課題は多そうだ。

スピードの問題は置いといて、とりあえずこのシステムで出撃してみるか。
少なくともバーサーカーよりは防衛的な立ち回りができるだろう。

―――――

「あー、疲れた……。」

どっとくる疲労に押し潰されるようにベッドに倒れ込む。
少しでも慣れてない状況に差し掛かると、負担が少なくても疲れを感じるのは私だけだろうか。

いつにもまして霧の深い戦場だった。
索敵失敗やらなんやら、掴みどころのない戦闘だったな……。
私はというとレーダーを二基搭載していたおかげか索敵に困ることはなく、
新しく作った高精度の焼夷機関砲「灼骨」も中々悪くない戦果を出していた。

「そうだ、ティタンフォートは……。」

小型端末から戦果データを確認する。
今回は新しいシステムのおかげか、ロウブリンガーと一体になったような動きやすさがあった。
なんにせよ生存率は100%だったし、戦果も悪くないはずだ。

「……防衛戦果9.39％ぉ！？」

思わず飛び起きる、想像以上の戦果だ。
なるほど、このシステムは私が求めていたもので間違いないらしい。

「機動と装甲の両立か……！俄然やる気が出るってもんだよ……！！」

エンジニア魂がメラメラと燃え上がる。
誰も死なせないという使命感よりも、仲間を守りたいという意思よりも、
高速で移動する要塞のようなハイドラを見てみたい、動かしたい。
そのロマンで、私の思考は一杯になっていた。


……こんなだから変人って呼ばれるのかな。

祟鬼漬クロガネが所有する移動式ガレージ内に設けられた小さな工房。

カタカタと音を鳴らす錆びた換気扇、プラプラと揺れる頼りない白熱電球。
古ぼけた大型テーブルに、軋みを上げる幾つかのパイプ椅子。
煤けた作業台の上には、不釣り合いなほどに新品なコーヒーメーカーが置かれている。

ここではパーツの製造のほかに、ハイドラの整備、点検、修理まで幅広く行っている。
訪れれば、やたら濃いコーヒーと一緒にぼそぼそのレーションを振る舞ってもらえるだろう。
……口に合うかは別の話だが。