ENo.0235　マルス・H・アテナ

残されていたのは映像記録と、資料のデータだった。
私は映像記録の一つを開いた。

画面に映し出されたのは見覚えのない部屋。
手術室のようにも見える、壁も床も真っ白な室内。
中央には作業台が置かれ、それを囲むようにして数人の人間と、母親が立っていた。

[実験1回目。
これは脳や中枢神経を除く全ての器官を機械化するというもの。
これが実現すれば体の不自由な生き物を救うことができるし、技術の大きな進歩になるわ。
今回の被験体はこのラットで―――]

「全身の…義体化ですって？」
自分の目を、そして母を疑った。
そんなことができるのか？確かに実現すれば革新的な発明になる。
義肢や義眼とは全く違う。人間を直接機械にする――今まで考えたことがなかった。
いや、考えてはいけないことだとどこかで思っていたのかもしれない。
考え方によっては、人の命を弄ぶ行為にも捉えかねられない。

記録を追っていくと、実験体はラットからモルモット、猿と変化していった。
気づいたのは、母親の様子。
記録を追うごとに、咳き込んだりふらついたり、時には体調を崩して作業を中断することもあった。
そしていくつかの紆余曲折を経て、私は最後の記録を開いた。

[実験34回目。
研究は最終段階へと入ったわ。いよいよ人体への実験を行う]

いつも作業台の前に立っていた母親が、今日はベッドの上に仰向けになっている。
周りには手術台がおかれ、蛍光灯に照らされた手術道具が生々しく光を受けていた。
「…嘘でしょ……」
これ以上は、やめよう。やめなくては。
それでも映像を止めることができない。
映像はどんどん進んでいく。注射を打った後、母親の頭にメスが入る。
「………お、おかあさ…」
それ以上は見ることができなかった。目をギュッと瞑って、事の経緯を考えた。
なぜ母は全身義体なんて研究を？なんのために？ハイアルン社の方針なのか？

[……実験成功だわ！]
やがて聞こえた母親の明るい声に、私は恐る恐るまぶたを上げた。
そこにいたのは母だった。まだたくさんの管に繋がれている変わらぬ、母の笑顔だった。

ただ、母の隣にも、母がいた。
頭を切り開かれた、母の、遺体が。抜け殻のように、ベッドに横たわっていた。
[ああ…これで病に侵された体ともさよならね…なんだか自分が目の前にいるのは変な感じね]

母が全身義体の研究を行っていた大きな理由。
それは自らの体に課せられた不治の病から抜け出すための、唯一の手段だったのだ。
[ああ、これでルキナともっと一緒にいられる。あの子の花嫁姿を見るまでは死ねな――]
「……え？」
母の動きが止まった。機械が機能を停止したように。動かなくなって――
[被験体！心拍数が急激に上昇しています！]
けたたましい電子音と共に聞こえてきた声に身を乗り出す。
慌ただしく動く人達の隙間から、母の顔が見えた。

彼女は、機械の体で涙を流していた。


どれくらい、時間が経っただろう。
映像は、母が動かなくなって少し後には終わっていた。
母は、二回死んだのだ。

「……おかあ…さん……」

こんなの、言えるはずがない。
父が母のことを頑なに話さなかった理由がやっとわかった。
「ルキナ様」
聞き慣れた声にぐしゃぐしゃの顔で振り向くと、モネタは深々と、重い頭を下げた。
「思い出しました――というよりは、ロックが解除されました。
ナヴィ様に頼まれたのです。自分に何かあったらこのデータを隠し、この件に関する私の中のデータをロックしろと。ルキナ様がこれを見つけた時、ロックが解除されるように私自ら設定したのです」

荒れた丘陵地に住み着いた子どもたちが、夜な夜な的を立てている。
ハイドラライダーは各自が利用料を払って訓練に使用している

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ユニオン活動：射撃*5 固定
ユニオン購入：経験値+1
ロールプレイ：やる気なし
参加脱退：自由（先着