ENo.0261　Solitus

真っ白い指先が、かちかちと端末をいじる。
届いたいくつかのボイスメールをもう一度再生しながら、ソーナは出陣までの時間を潰していた。
死亡のニュースが流れていた人物からのボイスメール。
それを受け取るなという企業連盟からのボイスメール。
そしてメルサリアからのボイスメール。
前に届いた一連のボイスメールたちは、無感情だったソーナの心にも多少の影響を与えた。

「……テイ」
「何？　ソナ」
「……テイは、企業連盟、信用してる？」

ぽつり、と小さく呟くように言葉を紡ぐ。
突然の交通事故で亡くなったナビゲーターと、死んだはずの彼女からのボイスメールを受け取るなという企業連盟――どうにも何かが引っかかるような感じがする。
ただの自分の考え過ぎかもしれないけれど、まるで企業連盟が何かを隠そうとしているように見えて――なんだか、嫌な感じがするのだ。
ソーナの脳裏に、絡繰世界で過ごした機械塔での記憶が蘇る。

「そうだな――企業連盟の人たちには悪いけど、俺はあんまり信用してない。まあ仕事はきっちりするけどさ」
「……そう」
「そういうソナのほうはどうなのさ？」

カナエの問いかけに、ソーナは顔をあげて彼のほうを見る。

「機械塔の人たちに似てるから、あまり好きになれない」
「……ソナが閉じ込められてたあの場所の大人たちに？」
「……うん。……何か、……情報を徹底的に伏せようとしているように、感じられて……わたしは、好きになれない」

呟くように言葉を紡いで、端末をテーブルに置く。
少なくとも機械塔の大人たちはそうだった。
成長するソーナに必要な情報を与えず、必要な行動をさせず、あらゆるものを伏せた状態にして、ソーナを文字通り何もできない、何も考えない状態にした。
もし、カナエが盗み出してくれなかったら自分はどうなっていたのだろう？

――考えたくもない。

「……しばらくはいろんなものに警戒しながら仕事をするようにしようか」
「……うん」

目を細めて険しい顔をしたカナエに頷き、ソーナは小さく息をつく。

――何事もないといいんだけれど。