ENo.0614　ルーチェ・アーミスト

一時の休息を得て、幾分か頭も落ち着いた。
ここに来てから周囲の景色や物にばかり気を取られていたからか、いざ二人きりで向かい合うと沈黙が嫌に気不味い。
会話が無ければ目につくのはセイランと名乗ったこの女の子の仕草や容姿。
恐らく歳は離れていないはずだが、自分と比べてやけに大人びているように感じる。
この世界でどのような経験をしたのか......あるいは元々の性格なのか。
──戦争かぁ......。気分の切り替えがてら人間観察はしてみたものの、やはり決めなければならない。
記憶を失う以前に自分が何をしていたかは分からない。
......が、少なくとも今は機体の操縦など自信がない。
説明してくれる辺り、私の仕事を手伝いたいという意見は尊重してくれているのだろう。

「......私は」

考えている途中だというのに、意志はもうやりたいことを決めている。
後先を考えなさすぎでは無いだろうか？
けれど、この舌は思いとどまるつもりは無いらしい。

「後悔はしないと思う。じっとしてても何も始まらないし、やっぱりあなたを手伝いたい」

「生き延びるだけなら......私を手伝うだけなら他にいくらでも手段はあるが？」

それは分かっている。
どうも彼女は周囲に興味が無いような素振りをしながらも、最低限他人への気遣いはしてしまうらしい。

──優しいなぁ。と、大事な選択の狭間にも関わらず呑気に顔を綻ばせる。

「そう、生き延びるだけなら他のことをすればいい。それはあなたも同じ。本当にそれだけのために命を賭けて戦ってるの？」

それを耳にすると、セイランは少し目を見開いて私をじっと見詰めた。

聞いてはいけなかっただろうか？
だが、それでも私は彼女に興味があった。
その目は何を求め、その足は何を目指しているのだろう。
セイランの行き着く先に、私も行ってみたい。
心配事ばかり考えていた頭は、いつの間にかそんなことを考えていた。

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

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