ENo.0505　セイラン＝ルーデ

残像領域では、理屈では考え難い現象が度々起こる。
距離が伸縮することがある。残像が実体を持つこともある。そして、人が突然現れることも。
中には、何かの作為を思わせるような出会いもあるという。
同じユニオンのシドは、その典型的な例だろう。かつてイルの同僚だったという彼は、撃墜された彼女の機体の前へと現れた。まるで、何かに導かれるかのように。
……さて、ではこの少女はどうだろうか。奇遇にも、似たような身の上の私の所へと現れたことは。単なる偶然か、それとも運命的な出会いとでもいうのだろうか？

――バカバカしい。その思考を内心で笑い、頭を振って追い出す。
件の少女……ルーチェは、きょとんとした顔でこちらを見つめ、「どうかしたの？」と聞いてきた。
手を軽く振りつつ「何でもない」と返答し、椅子から立ち上がって口を開く。

「少し休憩としよう。……たまに長く話すと、喉が渇いて仕方ないな」

現在はルーチェへと、この世界のことについて説明をしている最中だった。
好奇心が強く、頭の回転も早い彼女は聞き役には最適だ。もしも私が教師だったならば、良き生徒だと太鼓判を押していたことだろう。
とはいえ、時間が経てば話す側はもちろんのこと、聞き手側にも疲労が溜まる。時には頭を整理する時間も必要だ。
カップをふたつ取り出し、作り置きの茶を注ぐ。一方は自分の手に、一方はルーチェのそばへ。

「あ、ありがとう」

礼には言葉を返すことなく、よく冷えたそれを喉に流し込む。香ばしい香りと素朴な味わいに、ほうっと息をついた。
ふと、ここに来る道中でのルーチェの言葉を思い出す。

『同じ仕事は……邪魔になるかな？』

寂しさ、共感、興味、打算。理由が何であろうと構わないが……。
じっ、とルーチェの顔を見つめる。彼女は視線に気が付くと、困ったように首を傾げた。

「……どうかした？何か、顔に付いてるかな」

「いいや、何も」

私は単に生き延びる手段としてだけではなく、いつかこの目で外の世界を見るために戦っている。
同じ道を辿るのであれば……彼女は何のために戦うのだろうか。

***

……そうして、今。
メルサリアとやらの提唱した実験に、二人肩を並べて臨んでいる。
やることは変わらない。ただ片っ端から敵を墜として、生きて帰るだけだ。

「……さて……やるか」

通信は切ったまま、誰に話し掛けるでもなくぽつりと呟く。
頭のスイッチを切り替えて、戦闘に意識を集中する。
隣に並ぶ彼女が、『がんばろうね』と言っている気がした。

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

***

ユニオン活動：現在は反応*5
ユニオン購入：経験値+1、またはAP+10%