ENo.0268　ゴートリンデン

ゴートリンデンはその日はじめてシフト格闘用のアセンブルで戦場に出た。
長年の相棒の身を削ってまでやることか、と避けてきたのだが。装甲を分厚くした分だけ一度試してみようと思い立っての事だった。
そうして得た戦果はなかなかのものだったが。ガリガリと外装甲を吹っ飛ばしながら自ら突っ込んでゆくスタイルはやはり馴染まなかった。

その戦闘のさなか、外したはずの攻撃が敵を補足した。
『当たらないはずの攻撃が、当たる。』
それはアビダンが口にしたことだ。

（あれがそうか？）

ハイドラがライダーに同調する、という埒もない噂を彼は聞いたことがあった。
それをまるっきり信じていたわけではないが。
攻撃を外した瞬間自分がどんな気持ちでいたか。どんな感情の時に攻撃の軌道が変わったのか…。

コンテナハウスに戻り、ソファで煙草をくわえながら自分の心の動きをじっと思い出してみる。

あの時。轟音を立て、捉えた敵機の懐に飛び込みながら、この機体が愛犬だったらさぞや痛かろうと不意によぎった。
普段ならば戦闘中に浮かぶはずもないそれは、近い感情で言えば不安や焦りだろうか。

（自分の犬をこれ以上痛めつけてしまう前に早く終わらせねば。）

そう思った途端、攻撃を外した。
ぶわ、とその感情が大きくなる。
次の瞬間、空を切ったはずの電磁アックスは不思議な軌道を描いて敵機の頭部を抉ったのだった。


そこまで思いだして、渋い顔で煙を吐く。

『あんたの黒いハイドラには昔飼っていた犬が憑いている、間違いない』
いつになく心が乱れたのは同じくアビダンから出撃の前に聞いたこの言葉のせいだろうか。

僚機の話では、ゴートリンデンを乗せた古い戦闘機は途端に黒い犬の姿になるらしいのだ。
それでゆくと愛犬の魂の宿った機体で特攻する事になる。
その話が僚機のあてずっぽうだったとしても当然よい気分ではない。

「黒い犬が、憑いている。」
ぽつ、とつぶやく。

確かに、彼には死んだはずの黒い飼い犬に助けられた記憶があったし、彼のライセンスも愛犬が持ってきたものだ。
その犬と共にここへ来たのだと思い姿を探したが、今に至るまで一度も彼の前に現われてはいない。
それらすべて夢だったのではと、思いはしたが。
この残像領域で今生きている事自体が夢と言えば夢だった。

当然ながら戦闘中だけ現れるという黒い犬の姿を彼自身は一度も見ていない。

操縦棺に着いた彼はむしろ犬の事など忘れ、ただ穏やかな心持で桿を握っている。
頭が冷たく冴えわたるようなエネルギーと共に戦闘に集中し、自身が棺に馴染んでゆくと感じる。

（お前がそこに居る気がしない…。）

結局何一つ分らず、それ以上は考えるのをやめた。

兎にも角にも余計な想像で攻撃が外れるようなアセンブルは御免だ、
そう思ったのは確かだった。

どこからか迷い込んできた雑種の犬。

遊んでほしそうにこちらをじっと見つめる犬。

筋トレをしていると腹に乗ってくる犬。

くんくん言いながら餌をねだる犬。

じゃれついてきては困らせる犬。



がいる体で。

常に見えない何かと格闘する人生。そこに犬が居てもよい。

決まりは特になし。
各自好きなようにエア犬。
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格闘5：機動力+3％

（出入り自由。申請お気軽に。