ENo.0206　モニカ・フランクリン

「そっくりだったから、もしかしてって思ったの」
「そんなに似てます？」
「似てるわよ。髪の感じとか、目の色とか。……うん、よく似てる」

　紅茶を啜って息をつく、目の前の女の人を、眺めてます。
　なんだか素敵に女性って感じの人でも知ってるお店は限られてるっていうか、残像領域にそんなオシャレなお店も多くはないよねって感じで、私がこの前ハルと来た喫茶店だった。

　その人はレイラと名乗った。
　お兄ちゃんと付き合ってた、と聞いて、そうなんだろうなと思った。

「あなたがここに居るってことは、ロニーはそういうことなんでしょうね」
「…………」

　他愛のない会話を切り上げて、多分、これが本題なんだろうなって感じ。
　否定する理由は見当たらなかったけど、かといってどう答えたものかって感じで、結局迷ってから曖昧に頷くことしかできなかったんだけど。
　お兄ちゃんからは、あんまり話は聞いたことなかったなあって思った。わざわざ話すことでもなかったんだろう。私もまあ、そういう気はないけど、そういう相手ができたとして、お兄ちゃんに報告したかっていうと、うーんと。まあ頃合いを見計らってするかもしれないけど。程度の。
　でも、だって、この人はお兄ちゃんが死んだこと、知らなかったわけで。

「……あ、のー。失礼なこと訊くかも、なんですけど」
「なに？」
「お兄ちゃんとは、その、どうして……」

　別れたんですか、みたいな。ええと。流石に面と向かって訊くのはあれか。みたいな。普通に訊いちゃったけど。
　怒られるかなーって恐る恐る思わず上目遣いになったけど、別に気を悪くしたって感じは見えなかったので、ちょっと安心した。

「どうしてでしょうね？」

　ん、だけど。
　えーと。訊かれましても。

「……ひ、ひどいフり方とかしてませんよねお兄ちゃん！？」
「あはは。そういう人だと思ってました？」
「思ってないですけど！」

　思わせぶりに言われると気になるじゃんっていうかそのみたいな。ごにょごにょと口の中だけでもごもごと言い訳めいたことを。
　でも、レイラさんは優しい顔をしていて、静かに目を細めて、
　なんだか私の知らない人のことを語るみたいな口振りで、でもやっぱり、私のお兄ちゃんのことを言ってるんだなって改めて分かったりもした。



「いつかこうなるってことが、分かってたのかもしれないわね」



　ちゃんと、ちゃんと荷物を抱えて家路を歩く。
　落とさないように。誰にもぶつからないように気をつけて。

　お兄ちゃんは、死ぬつもりで残像領域に行ったわけではない、と思う。
　そんなはずはない。だって、私を一人で置いていくことが、どれだけひどいことかってことは、お兄ちゃんは絶対分かってたはずだ。
　私はお兄ちゃんを責めるつもりはないけど。
　でも、お兄ちゃんは、そうなることはだけ、絶対に避けたいと思ってたはずなんだ。

　だから。
　だから。
　いつかこうなるってことが、
　いつかそうなるかもしれないことを、
　お兄ちゃんが受け入れていたとは、思いたくないんだけど、

「……………」

　お兄ちゃんは、お兄ちゃんだ。
　私のお兄ちゃん。
　もういない人。

　いない人に何を訊いても分からないから、
　この謎はきっとずっと、分からないままだ。

ひとりでもユニオン。