ENo.0261　Solitus

カナエたちハイドラライダーにとって、ウォーハイドラは自分の命と同じくらい大切なものだ。
ウォーハイドラがなくては、あの戦場を駆け抜けることができない――襲ってくる敵を撃ち落として、相手にとっての地獄を作り出すこともできない。
ハイドラライダーにとってウォーハイドラというのは戦場を駆け抜けるための足であり、敵を倒すための武器であり、与えられる任務を達成するための道具だ。
全てのハイドラライダーがそう考えているのかどうかはわからないが、少なくともカナエはそのように考えているところがある――ソーナはもう少し違う考えかもしれないが。

そのため、カナエは自分たちのウォーハイドラであるソリトゥスのメンテナンスは欠かさない。
毎日出撃前と出撃後にメンテナンスを行い、古くなっていそうなパーツは新しいものと入れ替え、できるだけ最高のパフォーマンスを保てるように心がけている。
……心がけている、のだが。

「……やっぱりエンジンの劣化が原因かな……」

指先でとんとんとソリトゥスから取り外したエンジンを叩きながら、カナエは小さく溜息をついた。
少し前から感じることがある、ソリトゥスに乗っているときの違和感――最初は気のせいかと考えていたが、どうやら気のせいではないらしく、ソリトゥスに乗っている間に感じる違和感は消えることがなかった。
メンテナンスのたびに異常部位はないか、細かくチェックしているのだが、はっきりとした原因に辿り着くことが未だにできていない。
現在、最も高い可能性はエンジンの劣化だ――エンジンはこまめに新しいものにしているつもりだから、エンジンの劣化というのも不思議な感じがするが。

「思ってる以上にソナの歌がパーツに負荷をかけてるのかな……。……となると、もっとこまめにパーツを取り替えないといけないか……」

なかなか面倒だなぁ、と呟くが、その声色はどこか明るい。
今はマーケットへお使いに行っている相方の姿を、喉から紡がれる歌声を思い出し、カナエはくつくつと小さく笑った。
とりあえず今日のところはエンジンを一つ付け足して、それでなんとか動かすことにしよう――パフォーマンスは低下してしまうが、順次できるだけ急いで新しいエンジンと入れ替えていくことにしよう。
手に持った工具をくるりと手の中で回転させ、カナエは再びメンテナンスの作業に取り掛かった。

――この数分後、ソーナが真新しいエンジンを持って帰宅し、思わずはしゃいでしまったのは、まあ別の話。