ENo.0010　ヴィエ

■追憶

「……今回は、帰ってこれないかもしれない」
一人ごちる。僚機にさえ、言っていない言葉だ

残像領域では、時に思念さえ力になる。もしも負けたら、を話してはいけない。本当に勝てなくなってしまう
俺は、私は、強い。そう自分に言い聞かせ続けて、戦場に立つ

でも、今回は違う

「……いや、今回も一緒。わたしはヴィエと戦って、勝って、帰ってくる。それだけ」
確かめるように、自機の足を撫でる。きっと、いつもと同じように終わる

「そういえば、ヴィエ。よく眠る方法を知ったんだ」

「……やってみようかと思う。悩んでいたって解決しないし」

コクピット─―揺り籠と名付けられたそれまで入り、年季の入ったラジオのスイッチを付ける。いつものそれは、どこかの天気予報を延々と流している

だが、今日はロック・ナンバーで、知らない誰かが叫び歌う曲だった


『俺達は、風のなかで砕け散りひとつになる』

知らない誰かの声が叫んで歌う。もういつ手に入れたのか忘れた、とっくに壊れたはずのラジオから

「わたしは、うまくやれているだろうか。うまく死ねるだろうか」

揺り籠の中で、自分を出来うる限り殺していく。この一瞬、すべてが残像になる
そうして、一度死んだものは負けることはない。そういう、おまじないじみた祈りだった

『誰もみな、コバルトブルーの』

「風のなか……か。きっと、風になれるよ。大丈夫」

自分と、愛機に告げる。それは、別れの言葉にも似て

数人の研究者と数人の技術者で細々とやっている。
何の研究なのだろうか？