ENo.0044　ロウシャ・ゼイルストゥラ

　家を出て、もう5年近く経ったろうか。……今でも時々、帰りたくなることがある。家族の姿や高原の澄んだ空気を思い出して、胸が苦しくなることがある。決して広いとは言えない部屋に寝そべって、無地の天井を眺めることに嫌気がさすことがある。ただ、帰りたいと思うことはあっても、すっかり重くなった腰が上がることは一度もなかった。わかっているのだ。帰る手段も、時間も、もう残されていないことに。
　あと何年生きられるかわからないと言われ続けた。耳に胼胝ができるほど言われ続けて、わかったつもりになって、それでもそれはどこかで永遠に続くように思っていた。しかしそのうち、何年が1年になって、さらに半年になって、今ではいつ死んでもおかしくないと言われるようになった。……だから、ハイドラに乗るのをやめろ、とも。
　机に突っ伏していた顔を上げ、写真たてに手を伸ばす。14か15か……そのぐらいの頃に撮ったものだ。自分と妹が映っている。妹は楽しそうにしているが、自分はやたらと嫌そうな顔をしている。そりゃそうだ。どうしても成人前に写真を撮りたいというから渋々準備をしてやったのに、じゃれついてくるせいでまともな写真が一枚も残らなかった。……いや、写真を撮られること自体元々好きではなかったのはあるが――ただ、今となってはもう少し笑っておけばよかったと思う。きっと、妹の手元に残っている一番新しい写真もまた、これなのだから。
　――写真を机に伏せた。これをみていると、どうしようもない思い出だけがよみがえる。

　「……もう、手遅れなんだよ」

　誰に言うでもなく独り言ちて、また机に突っ伏した。今日は暖かい。寝床に入らなくても眠気が襲ってくる。

　……おやすみ、と言いそうになるのを、必死で我慢した。

何らかの理由によりハイドラに縛りつけられたライダーが集まる。掃き溜めとも言う。
　
一部メンバーの素行不良により世間からの評判は芳しくない。

音楽専念。