ENo.0261　Solitus

カナエにとって、強さを求めるということは普通のことだった。
彼が生まれたスラム街は強くなければ生き残ることができない、弱いままだと生きることができずに死んでしまう――そのような世界だった。
だからこそ、生き残るためにも、生き続けるためにも、カナエは強くなる必要があった。
協力するふりをして裏切る強さを。
笑顔を浮かべて相手を騙す強さを。
自分よりも強い相手を打ち倒す強さを。
生きるためにありとあらゆる物事を実行し、それが悪行であろうとも実行し続け、がむしゃらに生き残ってきた――それがカナエという少年だ。

自分が強くなり続けるのは、これからも生き続けるためだ。
残像領域という場所も強くなければ生き残れない場所だ――行動を共にするソーナを守りながら、自分の命をかけたこのギャンブルに勝ち続けるためにも、自分はソリトゥスと共に強くならなければならない。
――だから、行き着く果てはどこなのか、何を叶えたいのか、なんて聞かれても、カナエには答えることができない。

「俺は俺とソナのために、これから先も生き残っていけるように、強くなり続けるって感じだからなぁ……」

他のハイドラライダーは違うのかもしれないけれど、少なくとも自分は生き残り続けるために――戦場で楽しめる命がけのギャンブルを楽しむために、強くなる。
果てなんて見えないし、何かを叶えたくて行動しているわけでもない。
ソーナはカナエのことをいろいろなものを持っている人間だと思っているようだが、実際はそんなことはなく――カナエは自分自身のことを空っぽな人間だと思っている。

「……まあ、今はそこまで難しいことを考えずに、目の前のギャンブルを楽しもうか」

答えの出ない思考を一旦打ち切って、カナエは小さな声で一人、呟く。
相手がコインをベットした今、自分も同じように何かをベットしなくてはならない。
――こちらがベットするものは残像領域に足を踏み入れたときから、ずっと変わっていないけれど。

「……さあ、ありとあらゆる手を使って強くなり続けようとする俺と、禁忌とやらを発動するお前たち。勝つのは一体どちらだろうね？」

うっとりと目を細め、口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
これからさらに激しくなってくるであろう戦いを――よりギリギリになっていくギャンブルを想像し、ぞくぞくとした楽しさがカナエの身体を駆け抜けていった。