ENo.0281　アビダン

声がする。アビダンはその声に聞き覚えがなかったが、なぜか知っているような気もした。いや、けれども、やはり知らない。声。あるいはノイズ。肺が鳴る。胸が上下する。あらゆる音が聞き取れる……その音の意味はわからなくとも、羅列される何か……意味をもった呼びかけ、それが自分に向けられているかどうかも、やはりアビダンにはわからなかったが。
その呼びかけは、操縦棺の中にいる時に特に顕著にアビダンに響いた。体の揺らぐ感覚がする。ハイドラの震えに呼応して、自身の体がゆっくりとそれに馴染んで行くような……薄い膜の中に漂うような心地がする。

笑い声。自分のものでない。自分のもののような気もする……すべてが曖昧になっていく。ぞっとする感覚だった。恐れる必要のないものに恐れを抱きつつある感覚。けれどもそれが不快ではない。ただ馴染んで行く。ああ。現象。ただ現象だ。どこにだって、どんなふうにだって発生する。ただ原因があって——何がしかの。よくはわからない。けれどもそこにある。それだけのことだ。いつも、常に、どんなものであったとしても。

（どくん。）