ENo.0688　チェシカ

最後に覚えているのは、目が四肢が身体が焼けるように熱く痛くあつく眩しくあつい―――という事だけだった。

目覚めて見慣れぬ天井を眺め…る。
ぼうっとする頭で数度…目を瞬かせた。

　……ここはどこだろう？

手に力を入れると、僅かに指が動いた。恐る恐る視界に入る位置まで腕を持ち上げると、目の前には綺麗な白い腕が確認できた。

　…あれ？

動かすと滑らかに指が曲がる。

　…私、確か…怪我……痛ッ！

何かを忘れている？―それを思い出そうとした時に―頭にツキンとした痛みがはしった。
反射的に頭に手をあてると髪に触れる。
手櫛で長いそれを梳くと、甘い飴のようなつやのある金色の髪がつるりと指の間を抜けていく。
　
　…。

身体を起こすと、ドアが1つあるだけの真っ白い部屋の中央に置かれた台に横たわっていた事に気付く。
暑くもなく寒くもなく…殺風景な部屋。
見慣れたいつもの格好で―見慣れない場所にいる。

奇妙な状況に、10も半ば程度の処理能力ではとても理解できずに気持ちがぐらぐらと不安定に揺れているのがよくわかった。




『あｃ６８あー…ハローハロー、ご機嫌いかがかなチェシカ。』

天井から聞こえてきた声を捉えようと視線を動かす。
そこにはよく見れば埋め込み式のスピーカーがあった。

『視覚聴覚共に問題はないようだね、それは良かった。私は　　　　の　　　と申します。よろしく。』

たぶん男の人だと思うその声は、不自然に聞き取れない言葉だったり全く聞こえなかったりする。

「あのっ…ごめんなさい。聞き取れない所があって。もう一度名前を…」

『あぁあぁ…それは気にしないでもらって構わないよ。君の担当をするのは私だけではないのだから、名前なんてあって無いような意味のないものさ――さて、何から話そうか。
そうだね、まず君について話そう。チェシカ、君はどういうわけかこの世界―そう、君が元いた世界とは全く別の所―へと迷い込んで来ていたところを我が　　　によって　収されたんだ。
覚えているかい？君は重傷を負っていた。我々はそれをなおした…という事なんだけれど。』

「……はい、微かに覚えています。確か、私…火の海に居たはずで――そういえば両親は！？一緒に居たはずなんですが…」

『――君の両親らしき方も一緒にこの世界へと来ているようだね。そばで倒れている所を君といっしょに回収されている。ただ、君に比べると相当傷が深いようで―現在も　命の処置を施している最中だ。』

両親は生きている……思わず安堵のため息が漏れた。

『安心したところ申し訳ないのだけれども―少々シビアな話になってしまうが聞いてもらえるかな？身体を見てもらえればわかるだろうけれども、君には我々の技術の最先端の処置を施させてもらっている。言ってしまえば、君にはすごくお金がかかっている…という事なんだけど…わかるかな。』

「はい…。」

命に関わるほどの火傷を負ったはずの腕も身体も、痕のひとつも残っていない…。
こんな医療があるだなんて…元いた世界では考えられないほどの高度なものだという事くらいは理解できた。
そしてそれを行うのに、お金が必要な事だって当然―当たり前なことである。

『そんなに落ち込まないで―実はこの世界には、多額の報酬を得るための手段があって…そうだね。かくれんぼと鬼ごっこをする―そんなゲームじみたものがあるんだよ。それは機体に乗って行うんだけれども、それのテストプレイに参加してもらえれば十分に―そう、君の両親にかかっている費用ですら賄える額なんだ。怖いものではないと思うのだけれど…―そこの扉を開けよう。外の空気でも吸って、落ち着いて考えてみてくれないだろうか―』


ドアが無音で開く。
一体どんな構造になっているんだろうか。
外に出るように促されたのだから…と、ドア先に続く廊下を光がさす方向へと歩いていく。





頬に湿った風が滑る。

嗅いだことが無いようなにおい。

目の前に広がる外の風景に思わず息をのんだ。
なんて綺麗な風景なのだろう、砂ばかりの乾いた大地だった元の世界では見ることができなかった光景だ。
水を含んだ空気が身体にまとわりつく感覚は新鮮だった。

綺麗だ――これを両親にも見せてあげたいな―とおもった。

「私……頑張ってみようかな……。」

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