ENo.0326　〈家族〉

「ハァーッ　ハァーッ　ハァーッ……」
ちくしょう、なんて厄介な物を拾っちまったんだ。
けったいなナリをしてるが、ハイドラ乗りだからと拾ったのが運の尽きだ。




客の庭に行ったら、客のハイドラの"中身"が落ちて来るのを見ちまったんだ。
ああ、なるほどこいつこうなってたのかって、しかしよ、たしかに顔はいいっちゃいいが、こんな体の男にメイド服っていうのはいささか悪趣味が過ぎるよな。まあ客の趣味には口出ししねえけどさ。

そんでそいつがずりずりと這ってどこかへ行こうとするわけだ、まあ、今までハイドラ乗りにこいつみたいな半身不随が居なかったわけじゃない、ちょっと手助けのつもりで運んでやろうかと声を掛けて――口をパクパクさせて、聞こえやしねえ、なるほど無口なわけだよ。耳をギリギリまで近づけてなんとか聞こえた。
「ど　こか　遠く」
紗のようにチリチリと高音の混ざる変な声だ。まあ長く声を出してなかったんだろうさ。
――この客には妙にうんざりさせられていたんだ、縁切りついでに今までの整備代のカタに持っていくのも悪くねえ、と。




ハイドラ乗りを遊ばせておく手はねえ、どうせなら儲けさせてくれよって、ろくに操縦棺もない――いやいやしかし、それ以外はいいんだぜ？生きる保証はまあ、しねえけど――寄せ集めのハイドラに載せてやったら、いやあ暴れる暴れる。
しかし、試用運転じゃあんな音はしなかったはずだよなとな、ヤツから出る音をじっくり聞いたのがいけなかった。
はっと思い出したんだ。あのハイドラ乗りのオーナー、客。……"親父"？
あの男は"駄目"だ。あの男とは一秒たりとも居たくないって思った理由。
自分で言うのもなんだが今まで危ない橋なんて何度でも渡ったよ、頭のおかしい奴や荒くれ者だって、その俺が、大の大人がだぞ！あの男を見るとゾワゾワとなにか、嫌な予感が――例えば、母ちゃんの大事な花瓶を割った時に、今にも怒るぞって振り向くまでのその瞬間のような！足元が無くなっちまうような"気持ち"を呼び起こすんだよ。あいつを見る度にカサブタを剥がされてそれが治るまで待つような、じりじりとした心の痛みってやつを感じていたんだ。

だから、俺は情けなくも、ガレージのすみっこであの"はんぶんこ"のハイドラ乗りとこうして蹲ってるってわけだ。

ただ無言で射撃する