ENo.0612　P・ドロレス

　　　　　６

　砕け散っている。
　ばらばらなものばかりが転がっている。
　ひとつひとつの話はあまりに無残に散らばっていて、それらを繫ぎ合わせるには無理がある。
　破片のような思考。
　ついに一致することはなかった断面。

　アイリーン・クリードは死んだ。
　そもそもことを始めたはずの彼女は、それらしい過程を経ることも、終わりらしい成果にたどり着くこともなかった。
　彼女はただ死んだ。ついに彼女が母親と認識できるような相手と、声や言葉、意思の欠片を交わすことなく。ドラマのない死。けっきょく、何も得られはしないまま。あの暗く冷たい、霧にまみれた操縦棺のなかで。
　しかし倒れた彼女の心臓から流れた最後の血の一滴は、ついに降霊型試行機体《ネリールース》に何かをもたらした。けれど、アイリーンはついにそのことを知らない。
　そして彼女が一方的に、野晒しのまま捨て置いたふたつのガレージ。《廻帰財団アルファ・ラルファ》の名義で残るそれらのなかで、彼女が造りかけ、途上のまま放棄したハイドラが、それぞれ固有にもがき始めた。
　先に目を覚ましたのは《トラップドア》だった。何かの弾みに働いた、非常電源の誤作動によって。操縦棺のなかには、子供だましの遺品がとろけ合っていた。アイリーンの母親が遺していった品々。あるいは、アイリーンが知る由もないような思い出たち。言うまでもなく、そんなものではとても足りなかった。
　人間が必要だった。生きた人間、自分のなかへ落ちてきてくれる誰かが。
《トラップドア》は外へ出たかった。暗く冷たい操縦棺の外へ。言葉らしい言葉を持たないときから、もうずっと。アイリーンによって設定された、自分は人間であるはずだという、誤った志向性のために。
《トラップドア》はまず、《アルファ・ラルファ》の名前を使ってライダーを探した。自分に乗ってくれる人間を。一度自分のなかに落ちてきてしまえば、もう逃れるすべはない。この落とし穴に落ちれば、彼あるいは彼女は、もう二度と外へは出られない。
　一人目が見つかった。何も知らない子供だった。《トラップドア》に、人間の年齢などわかりはしなかったが。それでも、それは《トラップドア》よりはるかに幼い存在だった。何といっても、その頃にはまだずいぶんと稚拙だった《アルファ・ラルファ》の言葉にうなずき、やって来てしまうほど愚かだったのだから。それは操縦棺のなかで溶け、あっけなく撃墜され、死んだ。死ぬと同時に、それは《トラップドア》に浸透し、人間じみた姿を与えた。子供だましの髪の色。造りの甘い目。明るい場所で目にすれば、およそ本物とは見えないだろう白い肌。
　名前を考えた。スピールティア・オー。いくらか自虐的な意味を持って。自在に姿を変える玩具と、水。
　死んだライダーの残り滓を啜るうち、スピールティアの見た目と中身は少しずつましになっていった。いくらかずつ人間らしく。スピールティアは、身の回りの品を集めるようなことさえし始めた――脆く綴られたガラスのシャンデリア。手仕事に絵をつけられたティーカップ。化石のごとき蓄音機、レコード。前時代的になりながら、それでもしぶとく生き残っているものばかりを。まるで好事家のように。
　それは《トラップドア》であるとともに、スピールティアでもあった。思うほどの身体を得るまでに、果たしてどれほどの人間を溶かし啜ったものかは、スピールティアにしろ《トラップドア》にしろ覚えてはいなかった。

《廻帰財団アルファ・ラルファ》：

　残像領域にいつからか存在する、霊的研究・実験出資機関。
　霊障と霧、電磁波に関係する機体のアセンブル、およびこれらの研究・実験に対し出資を行う。

　過去には、
　溶解性搭乗機体《トラップドア》、
　生体型完全自律駆動機体《ブラックウィドウ》、
　降霊型試行機体《ネリールース》などのアセンブルに関わっている。


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《廻帰財団アルファ・ラルファ》は研究・実験のための出資機関であり、ユニオン参加者へじっさいに資金提供を行います。

　送金処理は毎更新ごとに、ENo.0612より行われます。
（出資額はそれほど高額ではありません。100～200c程度を予定していますが、変更もあるかと思います）
　
　ユニオンへの参加は、ENo.0612宛てのメッセージにて、研究・実験内容を申請してください。
　厳正なる審査ののち、返信メッセージとともに承認します。
　申請についてはP・ドロレスではなく、《廻帰財団アルファ・ラルファ》のオペレーターが対応します。


　なお、ENo.0612は毎更新、死亡許容で登録します。
　死亡した場合は同キャラクターを再登録し、再登録後は同ユニオンを設立する予定です。
　キャラクターの撃墜・死亡によってユニオンが解体されてしまった場合、それまでの参加者はユニオン再設立後に承認します。

　
　*** 整備特化 ***