ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

「エリカさん近くないですか？」

近かった
具体的には巻き毛の女の背にべったりへばりついていた
エリカの体温が服越しに巻き毛の女へと伝わる

「やだ？」
「やだじゃないです！」
「よし」
「いいんですかそれで」

エリカがこの調子なのは当然ながら理由がある


「ファッキンコールド（クソ寒い）」
「操縦棺に入っていれば温かいんじゃないですか？」
「アホか猫係　ずーっとあそこ入ってもつまんねーべ」
「……そうですね」

操縦棺に入る事を嫌がる　当初のエリカからは考えられない言動に巻き毛の女は口元を緩めた
著しい粘着性を発揮するエリカをなんとか背から剥がし毛布で包む
そして彼のために温かいスープでも作ろうと立ち上がった
今日は格納庫内に技師の姿はない　どこに行っているのかわからないがそのうち帰ってくるだろう
技師はこのように度々行き先を告げず外出する事がある
男に聞いたところ彼は昔からそういう所があるらしい　特に気にする必要はないとも言われた
技師がいつ帰ってきてもいいようにスープの量は多めにしておいた

「なーお」

足元に擦り寄っておいしいものを要求する猫達にもパウチの餌をあげておく
一心不乱に餌にありつく猫　その横から毛布おばけとなったエリカが匍匐前進で接近する
じっと猫を観察する真っ白いいもむしは未だ表情こそ変わらないものの楽しんでいる事は明白であった



「猫係」
「はい」
「寒い」
「そうですねえ」

完成したスープの器を抱えて縮こまっているエリカ
彼は隣に座る巻き毛の女にぴったりとくっついて離れようとしない
巻き毛の女にとっては可愛い弟が甘えてきているようなものなのでそれを拒否するなどという発想はない
彼女はほっこりしながらスープを一口飲んだ
それを真似するようにエリカもスープを一口飲む
しばらく置いてまたスープを飲むと同じように真似をする
それを幾度か繰り返す　巻き毛の女はなんだか嬉しい心地になった

「技師さんは何してるんでしょうね」
「知ーらね　どうせろくな事やってねーっしょ　てかあいつこの寒さでよく外出れるな」
「支度する時服の中に厳重にカイロ仕込んでましたよ」
「突然気温上がって暑さで溶けろ」
「ふふっ」

胡散臭く怪しげな少年（アラフォー）だというのに技師にはいじられキャラが妙に似合う
巻き毛の女はそれが少しおかしくて思わず笑いを溢す
エリカはひやりとするような真顔のまま軽く笑った



さらさらと水の流れるような音が聴こえる
それは胎児を包む羊水のように穏やかな流れで
……その奥に彼女は誰かの声を聞いた

「完成させなくては」
「私の子供」
「私達の子供」
「我らの子供」

「孤独な花よ」

「お前は」
「あなたは」
「君は」


「一人じゃないよ」

「愛してるよ、『Erica』。俺のたった一人の小さな子供」

*にゃー*