ENo.0505　セイラン＝ルーデ

「……まったく、セイランったら」

ルーチェ・アーミストはこの日珍しく、見るからに不機嫌だった。
彼女が不満を顕にするのは滅多にない。そういった表情をさせている原因……セイランは、未だに姿を見せない。
端末を確認すれば、セイランに指定された待ち合わせの時間まで、まだ幾らかの時がある。
思い返すのは、数刻前。セイランからお誘いがかかる、直前のこと。

『やっぱり、ランキング一位は難しいよ……なかなか思うように行かないし』
『……そう無理をする必要は……どのみち、何かあるわけでも……』
『……今、なんて？』
『……あっ』

問い詰めてみれば、しばらく前に喫茶店でそういう話を聞かせてもらったというではないか。
詳しい話は、直接聞いた方がと聞かせてはくれなかったけれど。
……セイラン、私には何も言わないし、お茶に誘ってくれたこともないのに！
一緒に先へ行こうと言っておいて、私のことは全然見てくれていない気がする。

「（最近はそもそも、あんまり喋ってない気がする……）」

実際にセイランが話しかけている割合にはそれほど大きな違いはないのかもしれないけれど。私が拾われたばかりの頃は、毎日ついて回っていたから……余計にそう思うのかもしれない。
バディをユメと組むようになって、セイランと一緒の戦場には行かなくなって。
セイランはユメの方をよく見ているけれど、私のことはちゃんと見ているのかも分からない。
……今日こそは、彼女の口から色々聞かせてもらうんだから！

よし、と意気込んだ少女の目に、待ち人の姿が映った。時計の時刻ぴったりの到着だ。
セイランの先導で、彼女の行きつけだというお店へと向かう。
何としても口を割らせてやるという決意を持ちながら。

***

「……それで？どういうこと？」

ルーチェの手元には、真っ白な甘い飲み物のグラス。対するセイランの手元には、真っ黒な液体の入ったカップ。
互いに思い思いにそれを味わっている最中、ふとルーチェが切り出した言葉に、セイランはきょとんとした表情を見せた。

「……何のことだ？」
「ユメから聞いたよ、セイランには本当の目的なんかないって」
「ああ。なんだ、そのことか」

何を今さら、といった口振りのセイラン。

「焚き付けてやれば面白いことになるかと思ってな。気分を害したなら、済まなかった」
「そういう話がしたいんじゃないんだけど……」
「私の目的は、会ったときに伝えたはずだが？」

この世界の、外を見る。セイランが常々口にする、『果ての果て』。ハイドラライダーとは、そこに辿り着くための手段なのだと。
ルーチェとて、その約束を忘れたわけではない。むしろ、その約束を果たしたいからこそ……セイランのことを、心配に思うのだから。

「私の戦闘機動から深読みをしたようだが……ルーチェ、そもそも前提が違うんだ。私とお前は、同じ人間じゃあない」
「それは……そうだけど」
「あんな無茶な動きをするのだから、目指すものがあるはず……それは、ただの思い込みだろう？」

例えば、それがただの戦闘狂なら？或いは、そうすることで最大限の力を発揮できるとしたら？もしくは、撃墜されたら必ず死ぬような環境に置かれているとしたら？

「念のために言っておくが、私も好き好んで死にたい訳じゃない。ただ……私はお前が考えるよりももっと軽い理由で、戦場に身を置いている。それだけは覚えておいてくれ」
「……………………、はぁ」

深いため息。結局、思ったような話は聞けていない。ただ……セイランはどこまでもセイランなんだと、そんな風に思えるようにはなった。

「うん、それは分かった。……けど」
「……けど？」

にこ、とルーチェが笑顔を浮かべる。

「次は、私より先に、ユメを誘った理由が聞きたいな？」
「……それは」

言い様のない寒気を感じるセイラン。結局この日は、ルーチェが満足するまで話をし続けることとなった。

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

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ユニオン活動：現在は制御*5
ユニオン購入：経験値+1、またはAP+10%