ENo.0122　ソシル=ナヅナ

　たまには真面目に日誌を書こうと思う。
　非常に珍しい事に、俺を目的とした来客があった。
「いつぞや、素材を買いにきたラピアだ」
　紫の魔女。
　恐らくは俺のように異界から渡ってきたヒトであろう彼女は開口一番そう言った。
　こちとら残像領域に来てからというもののぼっちライフ絶賛満喫中である。片手で数えるほどしかいない接点のある人物、ましてや自分と同じく「魔法」の気配がする奴の顔くらいは覚えている。
　以前よりも少しやつれているように見えるが──こういう場面で私情を表に出すタイプではないだろうし、言及するまでもないか。
　…まあ、何背負ってるかわからん奴に割けるほどの情は持ち合わせていないというのもあるが。

　要件は？
「此度は『噴霧器の作成依頼』の件で来たんだ」
　聞けば彼女はこの残像領域で仲介屋のような事をしており、受けていた依頼の一つで俺が適任だと思い当たったのだという。
　ぼっちライフ故に時間、金、素材、正直なにもかも持て余している。断る理由もあるまい。

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　増幅術式《ミストヴァンジェンス》。
　噴霧器の名としてはいささか大仰な気もするが、比較的特殊なパーツであるこいつを選ぶ奴のタチはなんとなく想像がつく。
　理由や目的は何であれ「憑かれてる」奴なんだろう。故に「霧の復讐者」。
　え？一つ欲しいだけじゃなくていくつか要る？　…この世界に来てから一番忙しいんじゃないのか、今週は。

　…しかしアレだ。まさかあの酒飲み姉さんもこの世界に来てたとは思わなんだ。
　見た目ちゃらんぽらんだけど相当やり手だからなぁあの人…ちょくちょく撃墜されてる俺とは比較にならん戦果を上げているんだろう。
　…ってか上げてるな。うん。ランキングというか数字って残酷ね。うん。

『当社について説明致します』
『ミナヅキ･インダストリはパーツ製造を目的としたユニオンです』
『扱う商品は主に火炎放射機、パイル･ダガー･ブレード類の近接兵器、FCSやジェネレータ等の内装部品となります』
『参加に特にこれといった条件はありません。もし上記パーツを1つ製造しているのであれば十二分でしょう』
『強いて言うのであれば、培養兵器･領域殲滅兵器の使用者を特に募集しております』
『当社からの説明は以上になります』
『貴方からの良き返答に期待しています』