ENo.0206　モニカ・フランクリン

　結局世はこともなし、夢に見たようなことが起こりもせずに私は毎度生き延びて、人が死ぬ姿も、人が死ぬ現場も見て、たぶん殺すようなことも繰り返してきて、それでもなんだかその実感が湧かないままこうしてふわふわ生きてるわけだけど。
　ライダーとして人を殺すことと、この手で人を殺すことは、なんだか未だに全然噛み合わない。
　たぶん私は既に何人も何十人もハイドラライダーを殺していて、たくさんの知らない人の死骸の上に立っているんだけど、未だにそれより、自分の手で殺した一人の方がずっと実感があって重い。
　のが、なんともどうにも口惜しいというか、不甲斐ないというか、歯痒いというか。

　あいつのことをずっと覚えているのが嫌なんだと思う。

　お兄ちゃんは、私が殺しているのであろう人と同じように、戦場で殺されたのだろうと思うし、でもそうだとしたらお兄ちゃんを殺した人も、お兄ちゃんを殺した手応えもなく、全然今も普通に生きているんだろうなって、なんにも引きずることなんてないんだろうなって思うと、どうしようもない気持ちになるときもあるけど、その人は他ならぬ私なのだ。
　だから私はその人を責める権利はない。全然。一個も。戦場での死が、そういうものだと、なんとなく分かるようになってしまったから、誰を責めることをする気も起きない。

　捨ててしまいたいクズの死がずっと手のひらの中で重いままで、
　大事に抱え続けていたい大切な人の死が、撹拌されて薄まっていく。
　どうしてこんなことがあってしまうんだろう。

ひとりでもユニオン。