ENo.0338　ドランカー

【10：Order】

《ヒルコ で よろしい の ですか？》

交渉が終わると、無機質な女性の合成音声――AIのMARYが話しかけてきた。

「ああ。企業連盟は酒飲んで出社すると煩そうだからな。それに、」

軽口。しかし、次の言葉を少し貯めた。


「いざって時に抜けやすいところがいい」


その言葉が意図する事を、MARYは理解していた。

――戦場の隅、ありえない長距離射程で敵味方区別なく狙撃していく紅い残像。
そんな目撃情報を拾ったのだ。


ようやくの目的。
そこにたどり着くのは短くはなかったが、しかし丁度よかった。
戦勘を取り戻せたし、装備も充実している。


《標的 を 撃ったら どう される の ですか？》

――不意に、MARYが問いかけ、ドランカーは面食らった。

MARYがこの事情に口出ししてきた事もそうだが、ドランカー自身、その後の事を考えていなかったのだ。


男はウィスキー瓶を一口呷ると、

「そりゃあ聞くのはなしだ、後の話はゲンが悪い」

冗談めかして、話をごまかした。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。