ENo.0338　ドランカー

【11：Mist】

霧に覆われた町を窓越しに眺める。
今日は一層、霧が濃い。


ハイドラライダーと企業連盟の対立は、町のハイドラ関連店に少なからず影響を与えた。
この店も例外ではない。客でも浮浪者とも違う人影をちらほらと見かけるようになった。

さて、そろそろ夜逃げの準備でもするかと、荷造りを始めたころ――企業連盟が瓦解した。


そして結局は元の暮らしだ。
霜の巨人がどうとかいう話も聞こえてくるが、結局はすぐに落ち着いて、この退屈な日常に戻るのだろう。


マーカスは変わり映えのない外を眺めるのを止め、工場へと向かう。


あの二人は今頃どうしているだろうか。しばらくは見ていないが。
彼らに限って死んではいないだろう。いや、それはどうだろうか……


ふわふわと、漂う霧のような退屈な思考だ。
時々、自分自身も霧に溶けて消えてしまいそうな錯覚を覚える。特に、こんな客の少ない日は。


「マリィ、そちらはどうだい。アルコール臭くても、退屈よりはマシだろうか」


その声に応える者はいない。
声が届くにはあまりにも遠く、霧はどこまでも厚かった。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。