ENo.0008　エリカ＝ヒースハイデ

イーゼルの前に座るエリカは猫毛だらけの黒い軍服の上から毛布を被っていた
キャンバスは真っ白だ　しかし何も描かれていないという訳ではなかった

「雪だね」
「ん」

そこに広がっているのは雪景色だ　白い頭巾を被った木々や建物なども散見される

「今の外それの比じゃないよ。見に行ってみる？」
「充分見たんでいいっすわ」
「そうかい」

技師は背後からエリカの頬を両手で挟む
むにっとした感触に包まれるエリカ　彼は微妙に怪訝そうな表情を作った

「あったか。アホじゃねーの」
「平熱高いんだよね」
「子供かよ」
「子供だよ。君に言われたくはないけどな」

はっはっはと平坦に笑ってみせる技師
エリカはそれが妙にむかついたため　技師の被っている帽子を手も触れずに奪い取った
宙に浮く帽子はくるりと一回転してエリカの頭上に着地する
技師の真似をするように帽子を斜めに深く被ってみる　意外と悪くない心地だった

「あげようか？」
「いらね」
「まだ同じの持ってるし」
「いらねっつってんだけど」

エリカはしばらく技師の帽子を被ったまま返さなかった

*にゃー*